第25章 王都の舞踏会
「ペトラは寝たか…」
エルヴィンはそうつぶやいたのち、部下を思いやる気遣わしげな表情を見せた。
「理由も定かではないままに、いきなり貴族に呼びつけられるのは相当なストレスだろう。眠ることができるのなら、それが一番いい」
「私もそう思います」
そう同意してから紅茶を静かに飲んでいるマヤを、何も言わずにじっと見つめていたエルヴィンだったが、眉のあたりをぐっと引きしめたかと思うと真顔で訊いてきた。
「……昨日報告してきたドレスの色指定だが…」
昨日の午前中に予定どおりにペトラと一緒に、ヘルネのディオールへおもむいたマヤ。エステルにジャド、王都からの応援部隊が夜通し縫ったドレスの最終のフィッティングチェックをおこなった。
さすがエルヴィン曰く、ベルナール・ディオール氏の右腕であるエステルが総指揮をとり仕立て上げたドレス。
完璧な見た目にたがわずその着心地も、まるで何もまとっていないような感覚にすらなる圧迫感のない軽さ。それでいてきゅっと締まるところは締まっており、ボリュームを出す部分はきちんと出ている。女性らしく美しい体のラインを強調しながらも、一番に重視しているのはエステルが主張していたとおりの “着心地” であるのだ。
夢のような着心地の美しいドレスを試着して、大満足で兵舎に帰ってきたペトラとマヤは、団長室でその旨を報告した。そして忘れずに “ペトラのドレスには純白という指定があった” こともつけ加えた。
報告を受けたエルヴィンは、そのときには眉ひとつ動かさずにいて、純白の色指定をさほど重要視していないように見受けられた。
であるからして、まさかここで真剣な顔をしたエルヴィン団長が話題にするとは、マヤは思ってもみなかった。
「………? はい?」
「君の率直な意見を聞きたい」
「はい…」
……率直な意見?
子供じみた発想ではあるが、ペトラとも話したとおり、またオルオにも話したとおりに “花嫁” を連想させるということしかマヤにはない。
だから正直にそう口にする。
「伯爵が純白を指定していると聞いて、まるで花嫁だと思いました」