第25章 王都の舞踏会
「ふふ、そうだね。ペトラは可愛い」
マヤはよく眠っているペトラの寝顔を見ながら笑った。
「……思うんだけど、ペトラはオルオと一緒にいるときが一番生き生きしてるよ」
「そうか?」
ものすごく嬉しそうな顔をするオルオ。
「うん」
「こんな跳ねっ返り娘は、俺しかまともに相手できねぇしな」
そう言ってペトラを見下ろすまなざしは、誰よりも優しさにあふれていた。
「……なんかこいつの寝顔見てたら、俺も眠くなってきたわ」
ふわ~っと大きなあくびをしながら、オルオが目をこする。
「寝て?」
「いやでも…」
遠慮するオルオにマヤは、はっきりと言いきった。
「私は全然眠くないから大丈夫。景色も見たいから、椅子の方がいいの。だからオルオはベッドで寝てね」
「そうか? じゃあ寝させてもらうわ…」
ベッドに横になったオルオは、そのまま数秒で寝入ってしまった。
「……眠くなるタイミングまで一緒なんだから」
今度はオルオに毛布をかけながらマヤは微笑んだ。
その後しばらくは椅子に座って景色を眺めていたが、喉が渇いたことに気づく。
……確か、お茶を飲めるところがあったはず。
船室を出て広間の方に向かえば、途中で見つけた。
そこはちょっとしたセルフカフェのようになっており、紅茶とサンドイッチなどの軽食を楽しめるようになっていた。
マヤが紅茶を買って、どこに座ろうかときょろきょろしていたところへ、声がかかった。
「マヤ」
「団長!」
にこにこと笑ってエルヴィンは、手まねきをしている。
「かけなさい」
そこは二人掛けの席で、エルヴィンは一人で紅茶を飲んでいた。
「失礼します」
マヤは言われたとおりにエルヴィンの向かいの席に座ると、開口一番こう訊いた。
「あの… 兵長は寝てるんですか?」
マヤの突飛な質問に、エルヴィンはその太い眉をぴくぴくと動かして笑っている。
「寝てる? リヴァイが?」
「違うんですか?」
「部屋でぴくりとも動かずに景色を睨んでいるよ」
「……そうですか。すみません、ペトラとオルオは寝ちゃったんです。だから団長も、兵長が寝ちゃってお茶を飲みに来たのかなって早とちりしました」
「はは、なるほどな」
エルヴィンの太い眉は、また愉快そうに動いた。