第25章 王都の舞踏会
「……で、マヤ。お前の方はどうなんだよ?」
こぶしを震わせてまだ顔を合わせてもいない貴族に怒っていたオルオは、落ち着きを取り戻したかと思うと、すぐにマヤに質問してきた。
「ん?」
なんのことかさっぱりわからないマヤは、オルオの顔をじっと見つめながら小首をかしげた。
「“ん?” じゃねぇよ! デートだよ、デート! 兵長とデートしたんだろ!?」
「あっ…」
オルオの放つ “デート” が、立体機動訓練の森にこだましている錯覚におちいる。
「ちょっとそんな大声で、デートって何回も言わないでよ。誰かに聞かれたらどうするのよ」
マヤは小声になるが、オルオは笑い飛ばした。
「誰かって誰だよ。俺ら以外には誰もいないって!」
「それはそうだけど…。でも前に一回、ジェームズさんに巨人模型の広場で出くわしたことがあるじゃない」
「あぁぁ! あったあった、懐かしい」
マヤとオルオが一緒に立体機動訓練の森で早朝の自主練をするようになってからまもなく、ジェームズという名の先輩に遭遇したことがあるのだ。ジェームズは単独で訓練していた。
「……私、ジェームズさん… 好きだったな…」
“オルオにマヤ… だったか? 新兵なのに自主練なんてえらいじゃないか。感心感心!”
そう笑っていたジェームズは、壁外調査で命を落とした。
「……俺も」
しんみりとしてしまったが、オルオがその空気を振り払うようにマヤの背中をばんっと叩いた。
「ジェームズさんと俺らくらいだって! こんな朝っぱらからここで飛んでるのなんてよ!」
「……兵長だって来たじゃない」
「そうだったな…。ってか、兵長! お前いつの間に兵長とデートなんかする仲になったんだ? ペトラから聞いたときはひっくり返りそうになったんだけど?」