第25章 王都の舞踏会
「もちろんだよ! 私もペトラは可愛いと思ってるよ? 冗談っていうのは見初められたってところだから!」
オルオの声色に負けないように、マヤは必死で訴える。
マヤの紅潮した頬をすぐ隣で見て、オルオははっとした。自分の怒気を含んだ声に大切な友達が誤解している。
「違うんだ。ウェディングドレスだとか貴族が見初めるとか聞いて、なんかカッとなっちまって…。怒鳴って悪かったな」
「ううん、大丈夫。見初められたっていうのは冗談でもないとちょっとありえないよね? 大体私たちって別に貴族と接点なんかないんだし。ペトラも全く身に覚えがないみたいだよ?」
「だよな。それなのになんでその… なんだっけ? グローブ?」
「グロブナーよ」
「そのグロブナー伯爵はペトラを…。それも純白のドレスなんか…!」
オルオが自分でも無意識のうちに握りしめているこぶしが、ぶるぶると震えている。
「そうよね…。本当に訳がわからない。今はすごく不安だけど、明日になったら色々はっきりするんじゃないかな?」
「そうだな。今は何もできないし、明日になってグローブ伯爵のところに乗りこめばわかるか」
「グロブナー伯爵だってば」
マヤがオルオの言い間違いを指摘すると。
「けっ! グロブナーだかグローブだか知らんけどよ、ペトラにちょっかいをかけるやつは、ただじゃおかねぇ。こてんぱんにしてやるわ!」
鼻息が荒いオルオだが、マヤは釘を刺した。
「オルオ、気をつけた方がいいよ。エステルさんが言ってたんだけど、グロブナー伯爵の機嫌ひとつでディオールがつぶされるって。立派な仕立屋さんを簡単につぶせるくらいの権力があるみたいだし…」
「そんなの知るかよ!」
ペトラを想うあまりに猛るオルオ。
「気持ちはわかるけど、よく考えて。変に相手を怒らせたらペトラに被害がいくかもしれないんだし、そこはちゃんと状況を見て行動してよ?」
心配そうに自身を見上げてくるマヤの顔を見ていると、オルオは冷静さを取り戻した。
「……わかったよ」