第25章 王都の舞踏会
そのことに安堵し、もうひとこと。
「すごく… 楽しかったです…」
「あぁ、俺もだ」
「………!」
そんな風に返してもらえるとは思っておらず、マヤは驚いて立ち止まってしまった。
数歩行ってから、リヴァイも立ち止まる。
「……どうした?」
「いえ…」
今は団長室に急行すべき。
甘い気持ちは、心の引き出しにしまわないと。
「申し訳ありません。急ぎます!」
再び歩き始めたマヤを見つめていたリヴァイも、何も言わずに団長室へ向かう。
幹部棟が見えてくる。
幹部棟は正門前にそびえているのだが、その正門を入ってすぐのところに御者台が前にある四輪馬車がとまっている。
「……あれは?」
馬車のことを訊くマヤに、リヴァイは幹部棟の階段を上りながら簡潔に説明する。
「昨夜、エルヴィンのところに王都からの急ぎの手紙が届いたらしい。そして今朝、ヘルネの仕立屋がやってきた。そしてペトラが呼ばれた」
「ペトラが!?」
全く予想もしてなかった友の名が出てきて、思わず話をさえぎってしまう。
「あぁ。しばらくして俺も呼ばれて、すぐにオルオとマヤを呼びに行けと。オルオは先に一人で向かわせてある」
「一体… 何が?」
団長室の前まで来た。
リヴァイはドアノブに手をかけて答えた。
「わからない。今、俺が話せるのこれだけだ。行くぞ」
そう言うや否や、ノックもせずにいきなりドアを開けた。
「エルヴィン、マヤを連れてきた」
「あぁ、ご苦労」
入室してすぐにマヤは、部屋の様子をさっと観察する。
エルヴィン団長は執務机にいつもどおりに座っている。その前にペトラとオルオが立っている。そして少し離れたところに配置してあるソファには見慣れない年配の女性が一人。
直立不動の姿勢で立っているペトラは不安そうな表情をしていたが、入室してきたマヤと目が合うと明らかにほっと安心したようだ。