第23章 17歳
マヤがリヴァイ兵長の執務を手伝うようになってから一週間ほどが過ぎた。
これまでどおりに午後の訓練の第二部の時間には、ミケ分隊長の執務を手伝う。途中で休憩をはさみ、18時前後に終業。すぐさま隣にあるリヴァイ兵長の執務室へ移動して一時間から一時間半程度の業務を終えたら、二人で食堂へ行く。食後はマヤの意に反して、必ず毎回自室の前まできっちりと送ってもらっていた。
最初の数回は部屋に送ってもらうことを律儀に断っていたが、今ではすっかりあきらめて大人しく送ってもらっている。
そうしないとリヴァイの機嫌が途端に悪くなるし、マヤ自身も送ってもらうこと自体が嫌な訳ではない。胸の鼓動のせいで寿命が縮まりそうではあるけれど、それでも想いを寄せるリヴァイとは一分一秒でも長く一緒にいたい。であるからして、送ってもらえることは本当は非常に嬉しいのだ。
ただ少々、人の目が気になるだけだ。
しかしそれも段々と慣れてきた。
食堂や廊下でリヴァイと一緒にいるところを見られると皆が… 特に新兵の女子グループが、壁外調査でのお姫様抱っこのこともあって、なにかしら噂をしているのではないか… という気になっていたが、どうやら思い過ごしだったらしい。
……兵長といたら、みんなに何かを言われるかもしれない…、どうしようと思っていたなんて自意識過剰すぎたわ。
執務を手伝うようになって一週間以上が経過し、毎夜ともに夕食をいただき部屋に送ってもらっても、特になんの噂話も持ち上がらないし、文句や嫌味を言ってくる人もいない。
逆に食堂に行くことになったいきさつを報告したペトラには、肩をばんばんと叩かれ大いに祝福を受けたくらいだ。
そう、全くの杞憂だったのだ。無用の心配、取り越し苦労。
胸のつかえが下りたマヤは今、立体機動装置を保管してある倉庫にいる。
ミケ分隊長が調整日の今日は、執務の補佐も休みなのだ。
だから午後の訓練の第二部の時間に、立体機動装置の手入れをしようとやってきていた。
窓の小さな倉庫は薄暗いが、マヤの心は明るかった。
ふふんと鼻歌すら出てくる。
だが数分後、マヤは自身を取り巻く状況について、いやでも知ってしまう。
杞憂でも、無用の心配でも、取り越し苦労でも… なかった。