第22章 一緒にいる時間
「すぐそこですから…!」
眉間に皺を寄せて立っているリヴァイの脇をすり抜け、逃げるように立ち去ろうとするマヤにリヴァイは有無を言わせず。
「送ると言ったら送る」
強引にマヤの部屋まで行く。仕方なくついていったマヤは、リヴァイの見守る中、部屋の鍵をがちゃりと開けた。
「すみません、送っていただいて…。お疲れ様でした」
「ゆっくり休め」
その言葉を背にしながら部屋にすべりこんだマヤは一度振り返り、自身の一挙手一投足を見逃さないかのように見つめてきているリヴァイに会釈をする。そして雑な動作で扉を閉めることなどできずに、音のしないように丁寧にそっと閉じた。
扉に背中を預けてマヤは、ふぅっと小さく息を吐いた。
まだ胸がドキドキしている。
……こんな… 兵長に部屋までいちいち送ってもらっていたら、身が持たない…。
次からは部屋まで送ってもらうことなんてないように、気をつけなくっちゃ。
マヤは心の中でそう決意してひとりでうなずいていたが、この先ずっと必ずリヴァイ兵長に送ってもらうことになるとは、残念ながら全く気づかずにいた。
一方、執務室に帰ってきたリヴァイは。
いつもなら真っ先に向かう執務机の椅子ではなく、ソファに座った。
……はぁ…。
ついさっきまでマヤがここに座っていた。当たり前のようにともに執務に勤しんで。
それだけでも満たされていたのに、マヤの優しさにふれて。
一緒に食堂へ行き、晩メシを食った。大して会話なんかなくても、あいつが美味そうに食っている顔を見られるだけで…。
マヤが食い終わった。食堂を出なくちゃならねぇ。女子棟まで来た。別れがたい。せめて部屋の前まででも…。
マヤは遠慮しやがったが、俺が送りたくて送ってるんだ。
……この先もずっと、絶対に送る。
リヴァイは決意をあらたにすると、ソファから立ち上がる。
執務のつづきをするかと一瞬考えたが、これからはマヤが手伝いに来てくれるんだ。ここで俺がまた執務で夜を徹すれば、マヤの厚意が無駄になる。
……部屋に帰るか。
リヴァイはこれからマヤが存在するのが当たり前になっていく執務室を優しいまなざしで見渡したのち、静かに出ていった。