第8章 紅茶屋の娘
家族同然だった仲間を目の前で巨人にむごたらしく殺されたリヴァイは、駆けつけたエルヴィンに刃を向けた。
その刃を素手で掴み血がだらだらと流れるのも物ともせずエルヴィンは、リヴァイに真理を説いた。
あのときの… エルヴィンの言葉に胸を衝かれたリヴァイの表情を、ミケは今でもはっきりと思い出すことができる。
そしてリヴァイは、エルヴィンに屈した。
……人によって様々な解釈があるだろうが… 俺は… あのリヴァイの表情の変化をこの目で見た俺は、リヴァイが素直で… 心の綺麗な男にしか見えない。
ミケは今は大事な仲間であるリヴァイの、愛すべきしかめ面を思い描き、フンと鼻を鳴らした。
「分隊長… 私にはどうしても、素直な兵長なんて想像できません」
「マヤ、お前にもすぐにわかるさ」
「そうでしょうか…?」
「あぁ 間違いない」
「……だと いいなぁ」
ミケとマヤは笑みを交わし、カップに残った冷めた紅茶を飲み干した。
「あっ そうだ… 分隊長」
ミケがマヤに顔を向ける。
「給湯室に、私物の紅茶を置いてもいいですか?」
「フッ、リヴァイみたいにか?」
「やだ! 違います!」
何故かマヤはリヴァイみたいにと言われて、顔が赤くなってしまった。
「なんでも好きなものを持ちこんでかまわない」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにしているマヤを見て、ミケは我知らずつぶやいた。
「……紅茶屋の娘か…」
「はい! 頑張って美味しい紅茶を淹れますね。それに父が時々茶葉を送ってくるから、一緒に飲んでくださいね」
「あぁ、それは楽しみだな」
優しく微笑んでくれるミケを見て、マヤは思い出した。
……そういえばミケ分隊長のことも、最初は苦手だったんだ…。
いきなり匂いを嗅がれ仰天したかと思えば、そのあとはただただ無口で取っつきにくかった。
でも今は口数は少なくとも、とても優しい信頼の置ける上司だ。
……リヴァイ兵長も、いつか同じように思える日がくるのかな…?
きたらいいな…と、マヤは心から思った。