第20章 想う
白く尖った小さな顔にかかる漆黒の髪はさらさらと揺れて。
まるで夜の空のような青灰色の瞳に囚われると、そのたびに心臓がトクントクンとうるさい。すっとした形の良い鼻の下にある薄いくちびるからささやかれる声は低くて… 耳に心地良い。
その声でささやいてくれた “必ずお前を守る” と。震える手を握ってくれた熱さがよみがえってくる。
その熱とともに自然とマヤの顔は火照り、瞳が揺らぐ。
その変化に目ざとく気づいたペトラはからかう。
「な~に赤くなってんのよ! やっぱ兵長の超絶かっこいい姿を思い浮かべたんでしょ!?」
「うん… それはそうなんだけど…」
姿かたちだけではない兵長の、内面から滲み出る何かに… どうしようもなく惹かれる。それはきっと強さであり、優しくて美しい何か。
深い琥珀色の瞳を揺らし、頬を赤らめているマヤの様子を見ながらペトラは二杯目の紅茶に手を伸ばした。
「兵長はさ… ほら、特別な相手と…」
紅茶を飲みながら、ぽつりぽつりと話し始めたペトラの声に耳を傾ける。
「つきあうとかそういうの… 考えてないんだし」
何度でもよみがえる “女なんて抱きたいときに抱ければいい” の言葉。
「だから気楽にいこうよ。私とマヤの好きは違うかもしれないけど、想いが向かっていく相手は同じなんだから」
ペトラは手許のカップを見下ろした。
「……だから顔を見てるだけでいいんだよ。それしかできないから」
そう言った瞳の色は見つめている紅茶よりも薄い茶色で、淋しそうにマヤには映った。
「……そうだね」
そう同意した琥珀色の瞳も、紅茶の水面を見つめながら切なそうに揺れていた。
「……私には… 想うことしか…」
消え入りそうなマヤの声を最後に、しばらく二人はうつむいて黙っていたが沈黙を破ったのはペトラの明るい声だった。
「終わり終わり! 辛気臭いの終わり! なんか違う話しようよ」
「じゃあペトラ、聞きたいことがあるの」
「何?」
「さっき部屋で大きなうさぎの顔のクッションがあったけど、あれどうしたの? 買ったの?」
にやりとペトラは笑った。
「あぁ、あれはね…」
このあと二人は、久しぶりに日付が変わるまでおしゃべりに熱中し心ゆくまで楽しく過ごした。