第6章 食堂の兵長
ペトラの嬉しそうな声にマヤが思わず振り返ると、リヴァイ兵長が食堂に入ってきてカウンターに向かっていた。
ペトラは少し頬を赤らめ、ずっと兵長を目で追っている。
オルオを見れば、そんなペトラを黙って見つめていた。
マヤの視線に気づき、オルオが淋しそうに首を小さく横に振る。
「はーっ、朝から目の保養になったわ」
ペトラは兵長を目で追うのをやめ、スープを飲む。
マヤはもう一度振り返ると、兵長が離れた席にこちらに背を向けて座っているのを確認した。
「目の保養って、すぐに午前の訓練で会えるのに」
「そうなんだけどね。訓練中の兵長と食堂の兵長は違うじゃない?」
ペトラの言葉にびっくりしてほんの少し声が裏返る。
「違うの?」
「うん。ちょっとやわらかくない?」
「……オルオ、わかる?」
マヤはオルオに話を振った。
「いや… 全然」
「いいんだ、別に。二人にわかってもらおうなんて思ってないから」
朝食を食べ終わったペトラは立ち上がった。
「じゃあ私、先に行くね」
「あっ うん。またね」「おぅ」
マヤが再度振り返ると、トレイを持ったままペトラが兵長に頭を下げていた。
……おはようございますって言ってるんだろうな…。
「マヤ」
オルオの呼ぶ声がする。
「うん?」
「あいつ… 完全に恋する乙女の顔だったよな」
「うん… そうだね。なんか今朝は、いつもより気持ち入ってたね」
マヤはどうして急にペトラが兵長に対する気持ちをはっきりと表に出したのかな… と考えていたが、すぐに思い当たった。
「あっ…」
オルオが何?と言いたげにマヤを見る。
「昨日の夜、ペトラと一緒に頑張ろうねって言ったからだ」
「はぁ?」
「だからペトラに色々頑張ろう、恋愛も頑張ろうねって言ったの」
「………」
「それできっと… 兵長のこと、頑張ろうと思ったんじゃないかな」
「お前さぁ…、俺の味方じゃなかったの?」
「……味方だけど、ペトラの味方でもあるし…」
「おいおい…」
マヤは、横に座っているオルオの方に体を向けた。
「オルオの想いもペトラの想いも、どっちも大切だもん」