第16章 前夜は月夜の図書室で
昼食を終え食堂を見渡すと、もう誰も残っていなかった。
明日はとうとう壁外調査。
予定どおりに午前で準備も訓練もすべて完了し、午後からは自由時間だ。
先ほどまで一緒にいたペトラは、街に買い物に行くからと早々に食べ終え行ってしまった。
ペトラはいつも、街で大量に買い物をする。普段は必要なもの以外は買わないのに、壁外調査前日には街中の店を制覇する勢いで、新作の服に帽子や靴などの小物、花の香りのする香油や石けん、そして色とりどりのまるで宝石のような菓子を買いこむ。人気のカフェで数量限定のケーキセットを一時間以上もならんで楽しむ。
荷物持ちはオルオだ。別にペトラが荷物を持てと命じた訳ではないのだが、どんなに断っても拒否しても無視しても何故か壁外調査前日の買い物に必ずつき添ってくるので、それならと諦めて同行を許可する代わりに荷物を持たせている。
マヤは一度だけ、ペトラとオルオの買い物につきあったことがあるのだが、その精力的なスケジュールについていけなかった。
「……ごめんね、ペトラ。私やっぱりアルテミスとのんびりする方が性に合ってるみたい」
「ううん、気にしないで! 私も自分のペースでまわる方が楽だし。マヤはアルテミスとゆっくりして」
「うん」
そんなやり取りをしたこともあったなぁ… とマヤは懐かしく思い出しながら、食器をカウンターに返しに行く。
「マヤ」
誰もいないと思っていたのに、ふいに名を呼ばれびくっとして振り返ると同期のザックが立っていた。
「……びっくりした…」
「ご、ごめん… 驚かすつもりはなかったんだけど…」
頭をかくザックに慌てて用件を訊く。
「ううん、大丈夫。……で、どうしたの?」