第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「桜の木も結構ありますね。春には桜色に染まって綺麗だろうな…」
椿の真紅も気品があって美しいが、春の桜の淡い白に近い紅色が山を覆えば、それはもう幻想的で素晴らしい光景だろうなとマヤは憧れの想いで胸がいっぱいになる。
花への想いでその白い肌を紅く染めているマヤの隣で、リヴァイも自分の気持ちが高まっていくのを感じている。
……シムズの爺さんのすすめで来てみたが…。
あの日あの夜、全周遠征訓練で立ち寄ったユトピア区の酒場で。地区長を務める駐屯兵団隊長のシムズは有名人のリヴァイとサシで飲めると上機嫌で、いつもより早く酔いが回った。
「リヴァイ兵長、聞いておられるかの?」
ばんと強くテーブルを叩くシムズの手にはグラスが握られていて、なみなみと注がれた酒が衝撃で揺れている。
「とにかくここユトピアは北の最果てといわれて、巨人対策でも疎かにされがちだが…。いや! 決して中央批判じゃないぞ? 批判ではないが…。わしはのぅ!」
なぜかヒートアップしているシムズ。その理由がわからないリヴァイは、黙って耳を傾ける以外に何ができよう。
「南ばっかり重要視されるのが我慢ならんのじゃ。確かに巨人は南からやって来るわい。ここユトピアの壁外で巨人に遭遇することは滅多にない。だからといって、巨人の出現率が低いからといって、なにゆえ南が北より偉いとなっとるんじゃ! つるっぱげのくせに!」
「……は?」
何を怒っているのかさっぱりわからないが仕方なくシムズの繰り言につきあっていたリヴァイだったが、謎のつるっぱげ発言に思わず怪訝な声を出す。
「……何を言っている」
「つるっぱげはつるっぱげじゃよ。あいつとわしは思えば遠い昔、切磋琢磨しながら訓練をした間柄じゃった。それがただ単にあいつの故郷が南で、わしが北というだけで、新兵のときにそれぞれトロスト区とユトピア区に配属されたわい。それでだな、南がなんだ! ちょっと巨人が多いからってあれよあれよと出世しよって」
シムズは興奮のままに、ぐいとグラスの酒を飲み干した。
「気づけばあいつは南側領土を統括する最高責任者、人類の最重要区防衛の全権を託された駐屯兵団司令ときたもんだ」
「……あぁ、なるほど」
そこまで聞けばリヴァイもさすがに “つるっぱげ” が誰だかわかる。
