第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「ではお食事まで、ごゆっくりどうぞ」
カズオが下がって、椿の間の前に残されたリヴァイとマヤは少し恥じらいながら入室した。
からからと軽やかな音を立てた引き戸が二人の後ろで閉まると、マヤは急に緊張してきた。
兵舎を出てから連絡船でも、騎馬中でも、そして宿に着いてからもずっと特には意識してこなかった “二人きり” の状況。
無論いつもどこででも、二人きりの状況は何度もあった。
だが小さな居室に二人きりという状況は、執務室を除いてはない。
……落ち着いて、執務室でいつも兵長と二人きりじゃない。
そう自身に言い聞かせても、マヤの胸のドキドキは高まっていくばかり。
……執務室は執務をするところだし、いつ誰が入ってくるかわからないから部屋に二人きりという感じじゃないんだもの。でもここは…。
入ってすぐの左手に便所と洗面所があり、洗面所の奥には小さなシャワールームが備えつけられている。温泉があるので部屋には本格的な浴室はないようだ。
そのまま奥に進むと大きなひと部屋になっていて、目に飛びこんでくるのは大きなダブルベッド。ベッドのさらに奥の窓際には小さなテーブルとソファと椅子があり壁には掛軸がかかっていた。
とりあえず荷物を椅子に置いて部屋を見渡せば、やはりどうしても意識してしまうのはベッド。いつも二人きりになる執務室との違いが一目瞭然である。
リヴァイの居室に入ったことはないし、マヤの部屋にもリヴァイが入ったことはない。部屋の前まで送ってもらうことはあっても。
それがいきなりベッドのある部屋に二人きりとなれば、意識するなという方が無理な話だ。
マヤは意識を違う方向に向けようと、きょろきょろと部屋を見渡して感想のひとつでも述べてみる。
「……素敵なお部屋ですね!」
若干声が裏返った気がして恥ずかしい。
「そうだな…」
リヴァイの声からは別段何も感じられないが、ベッドに背を向け窓から景色を見ている。
マヤはすぐにその隣に立った。
「森に包まれているみたい」
「あぁ、落ち着く」
窓からは見渡す限り森の木々が生い茂っている。中庭に咲いていた剪定された椿ではなく、野生の椿の木が紅い花を咲かせている。
「桜の木もあるわ」
山椿だけではなく、桜やぶなの木も森を構成していて美しい。