第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
見つめ合うリヴァイとマヤの二人がまとう空気は、そこだけ質感が違ってくる。熱く、強く、何者も入ることのできない特別な空間が生まれている。
熟練の二人タキゾノとカズオは、すぐにそれに気づいた。
「もうそろそろお部屋にご案内しましょうかなぁ。カズオさん」
「そうですなぁ。さぁさ、こちらです」
カズオについてロビーを出て落ち着いた雰囲気の廊下を行けば、椿が紅く咲き誇る中庭が出てきた。
「綺麗…! 本当に椿のお宿なんですね」
「そうですなぁ。この山の椿は初冬から春先まで次々と咲いて、わしらの目を楽しませてくれます」
カズオは皺だらけの顔で笑っていたが、すぐに案内すべき部屋に来たらしく立ち止まった。
「こちらがお食事をしていただくお部屋です」
杉の木でできた引き戸には、紫陽花の間と書かれた木札のルームプレートが掲げられている。
「アジサイ…?」
ずっと椿づくしだったこの宿で、初めて出てきた他の花の名。
「初夏のころには大きな毬のような紫陽花がたくさん咲きますでなぁ。春は桜、夏は紫陽花、秋は秋桜、冬は椿…。季節ごとに咲く美しい花が楽しませてくれます」
「素敵なところですね」
「わしはここしか知らんが、よそで暮らそうとは全く思いませんなぁ」
そう穏やかな様子で話しながら、カズオは廊下を進んでいく。途中にある桜の間、秋桜の間を通り過ぎて。
「こちらになります」
一番奥まった場所にある部屋は、もちろん椿の間である。
「お食事の用意が整いましたらまた参りますので、それまでごゆっくりおくつろぎくださいなぁ」
カズオは一刻も早くリヴァイとマヤを二人きりにしてあげたい一心で、ろくに説明もせずに帰りかけたが、あっと気づいてつけ加えた。
「わしとしたことが、お風呂の案内をすっかり忘れとりました…! あちらの」
と、今通ってきた廊下を振り返る。
「桜の間の手前の廊下を曲がった先に温泉がありますでなぁ。お食事の前に行かれますかな?」
リヴァイとマヤは顔を見合わせる。
「どうする?」
「私はいつでもいいです。兵長は?」
「そうだな…」
リヴァイは少し考える。
「メシの後にするか」
「そうですね、お風呂はいつもごはんの後だもの。その方がいいです」
仲良く決めている二人の様子を、カズオは微笑ましく見守っている。
