第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「マヤ、楽しいね」
「そうね、すごく楽しい」
「こうやってマヤが私の部屋で、私のベッドに一緒にいて…。ほんと最高! 生きてて良かった!」
「そうね、わかるわ。私もペトラが私の家に泊まってくれて嬉しかったし、ペトラの家にも泊まれて最高よ!」
二人は互いの幸せを確認し合って、ぎゅっと抱き合った。
「ペトラ…」
「なぁに?」
「ペトラがクロルバのこと好きだって言ってくれたじゃない? あれ、すごく嬉しかったんだ」
「うん、とってもいいところだった」
「でね、私もカラネスに来て同じようにいいところだな、好きだなって思った」
マヤの言葉に、ペトラはぱあっと顔を輝かす。
「ほんと? 嬉しい!」
「うん。街の人たちがペトラとオルオを見る目が優しくて。クロルバに比べたら随分と大きな街なのに、家族みたいなのは一緒なんだね」
マヤはカラネスに入ってからずっと感じた、あたたかな視線を思い出していた。
「それに万来亭のおじさんもペトラとオルオのこと、可愛くて仕方がないってのがすごく伝わってきたよ」
万来亭とは、食事をした居酒屋だ。
「そうなんだよね。私とオルオにとっておじさんは、お父さんっていうかおじいちゃんっていうか家族みたいなもんだよ」
「……お父さんといえば、ペトラのお父さんに会えなくて残念だわ」
「そうだね、私もマヤには家族全員と会ってほしかった。伯父さんがぎっくり腰だなんてアンラッキー」
ペトラの父親の兄…、要するにペトラの伯父がぎっくり腰になり、父親は仕事の手伝いに隣町に出向き留守にしていたのだ。
「でもおじいさんとお母さんにお会いできたから良かったわ。おじいさんは噂どおりのことわざ好きだったし、お母さんはペトラにそっくり!」
「そうでしょ。目元がよく似てるって昔から言われる。おじいちゃんはマヤを見て興奮してたね」
「興奮してたんだ」
「そうだよ、なんか色々すごい言葉のオンパレードだったじゃん。えっと…、紅口白牙、雲中白鶴、匂い立つような美しさとはおぬしのような娘のことを言うのじゃ。その髪の毛には大象も繋がるに違いない。まさしく立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!」
ペトラは祖父がマヤを見て一気にまくし立てた言葉の数々を、一言一句正確に再現してみせた。