第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
その様子をテーブルのはしの席から静かに眺めていたリヴァイは店主に声をかけた。
「じいさん、すまねぇな」
「なぁに、いいってことよ。オルオもペトラもわしにとっちゃ孫みたいなもんじゃ。二人が立派な兵士になってこうやって帰ってきてくれたら、これ以上のことはないってもんだ。ただな…」
年は六十を過ぎたあたりだろうか、目じりに皺が目立つ店主は声を低くする。
「あの子らを…、あの子らの家族を悲しませるようなことがあったら、わしは決して許さない。今年の春だったかペトラの父親がな、ここでべろべろに酔っぱらったんじゃ。そんなことはめずらしいから、どうしたんじゃと訊けばこう言うとった。ペトラから手紙が来たと。なんでも腕を見込まれてリヴァイ兵士長に仕えることになったと。俺の知らないあいだに、ついこないだまでこんなに小さかったペトラが、いっちょまえにすべてを捧げる相手ができたなんて書いてあると…。ろれつのまわらない口調で、そう言うんじゃ。笑ってるんだか泣いてるんだかわからない顔で酔いつぶれたあの夜を、わしは忘れない。兵士長にはまだ、一人娘を持った父親の気持ちなんぞわからないだろうがな…」
「………」
どう返せばいいかとっさにわからず、リヴァイはただ手元のグラスに目を落とす。
「そんな難しい顔をせんでもよかろう。調査兵団のなかでもリヴァイ兵士長とその部下は特別に強いんじゃろ? わしは信じておりますから…。あの子らを頼みます」
店主は頭を下げると、厨房に帰っていった。
「……あぁ、わかった…」
リヴァイのつぶやきは店内の喧騒にまぎれて静かに消えた。
それから数時間後、マヤはペトラの部屋にいた。
ペトラの母親が、ペトラのベッドの脇に長椅子を運んで布団を敷いてくれたが。
「マヤ、一緒に寝よ!」
「えっ、いいよ。私はこっちで寝るから」
ペトラのベッドは普通のシングルサイズで、当然二人で眠るには狭い。
だからこそ長椅子を用意してくれたのだし、マヤはもちろん長椅子で眠るつもりだ。
「そんな小さな長椅子で寝たら、疲れが取れないじゃん」
「そんなことないわ。野宿のことを考えたら立派な寝床よ。それに私がベッドで一緒に寝たら、ペトラの疲れが取れなくなるわ」
マヤはにっこり笑って、長椅子の布団にもぐりこもうとした。
