第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
しばらく鏡に映る自身の燃える瞳を不思議そうに眺めていたペトラだったが、ハッと時の経過に気づいてパンッと頬をはたいた。
「何をぼうっとしているのよ…!」
オルオの悪口を耳にして、思わず隠れていた個室から飛び出してしまったけれど。
……それはなぜ?
そんな疑問が心に浮かぶが、はっきりと答えがわからないまま立ちつくす。
「……だって当たり前じゃん。オルオは仲間で…、物心ついたときから知っている幼馴染みで…、家族みたいなものだから!」
無理やりに自分に言い聞かせて納得して、鏡の前から立ち去った。
廊下は静まりかえって薄暗い。
なじみのない駐屯兵団の兵舎は、最北の地ユトピアの冷えた空気で満ちている。
食堂まで戻ってきたが、先ほどまでのにぎやかな様子はもう感じられなかった。
……この感じ、知ってる。食堂が閉まる直前の雰囲気。
夜もすっかり更けている。
ペトラが扉を開けて中に入ると、案の定食堂に残っている人数は片手で数えられるほど。ぱっと見たところ知らない顔ばかりだ。
……えっ、みんなは?
状況が把握できずに不安になるペトラを、よく知った声が包んだ。
「ペトラ、遅ぇじゃないかよ」
「オルオ…!」
声がした方に、確かにオルオがいる。
ペトラはまだ慣れない場所で、見知った顔があることに安堵して駆け寄る。
「みんなは?」
「エルドさんとグンタさんは同期と飲みに出てった。マヤは兵長とどっか行った」
「……兵長? 来たんだ」
「あぁ。兵長が突然現れて駐屯兵のやつらに囲まれたけど、マヤを連れてすぐに出ていった。タゾロさんとギータがどこに行ったかは知らねぇ」
「そっか…。マヤ、いないんだ」
今さっき便所で起こったことをマヤに話したかったペトラは、少しがっかりしている。
「兵長とマヤがどこに行ったかわかる?」
「わかんねぇ。っていうか二人の邪魔すんなって言ってるだろ」
「邪魔なんかしないわよ…! ちょっとマヤに話したいことがあっただけ」
「なんだよそれ、そんなのいつでも言えるだろ。とにかく兵長とマヤが二人でいるときは邪魔すんなよ」
野宿をしたときにリヴァイとマヤの夜の時間を覗いてしまったオルオは、それ以来とにかく二人の邪魔をしないようにと必死だ。