第30章 映る
リヴァイに抱きしめられているところが熱い。
“他の誰のことも考えるな” なんて言われなくてももう、こんなに強く抱擁されたならば他には何も頭に浮かばない。
「いいか…、俺のことだけ見ていろ…」
首すじに半ば吸いつきながらささやくリヴァイの声はかすれて、マヤの耳元でリフレインしている。
「兵長…、私…」
それでなくても気を失ってしまいそうだったのに、さらに密着して強く抱かれたうえに声と匂い。
そう、マヤは今、リヴァイの匂いごと抱かれているのだ。
「もう駄目です…。本当にもう…。なんだかすごく…」
「すごく…?」
「………」
マヤはそれ以上は何も言わない。
……兵長にいい匂いがするなんて言えないわ…。
黙ってしまったマヤの髪に顔を深々とうずめたまま、リヴァイは訊く。
「おい、すごく… なんだ…?」
「放して…? もうほんと無理。立ってられない…」
「大丈夫だ、俺が支えている。それより何がすごくなのか言えよ」
いくら抵抗しても全然抱く力をゆるめてくれないリヴァイに、マヤは業を煮やした。
「ねぇ、本当に放して? 放してくれたら言いますから…」
「チッ…」
無論リヴァイは放したくなどないが、マヤの言いかけた “すごく” のつづきが知りたくて応じることにする。背後から覆いかぶさるようにマヤに抱きつき、感情のままに腕に力をこめて、髪に顔をうずめてうなじの左側に吸いついていたが、渋々、嫌々、不承不承ゆっくりと、マヤの首すじから顔を離した。そして腕の力もゆるめる。
「これでいいだろ」
やはり離れたくはなくて、声が不機嫌だ。
しかしマヤはやっとリヴァイの拘束から少しだけでも逃れられて、ほっとする。
ふれていたところ全部が熱くて、その感覚と耳元でささやかれる低い声に全身がしびれて今にも倒れそうになっていた状態から解放された。
「さぁ、話してもらおうか」
リヴァイはゆるめた自身の腕の中にまだいるマヤの向きを、くるりと変えた。するとうるうると濡れているのがよくわかる大きな瞳、月影に映る白い肌、上気している頬と紅いくちびるが月明かりに照らされた。