第30章 映る
「いや…、」
……用なんかねぇ。ただ逢いたいだけじゃねぇか。
そんなときにサビが気を利かせて逢わせてくれた。
ただそれだけのこと。
「……兵長?」
いや…、と言ったきり黙ってしまったリヴァイを、不思議そうに見上げてくるマヤ。
……クソッ。
先ほどまでここにいたサビならば、何も言わなくても心に浮かんだ言葉がすべて伝わった。短い時間とはいえ強烈な経験だったので、今もその感覚が残っている。
だからか、瞬時に気持ちが相手に伝わらないことに苛立ちさえ感じてしまう。
だが目の前で愛らしい顔を向けて小首をかしげているのは、誰よりも大切なマヤ。苛立ちをぶつけるなんて間違っている。
「用はないが…」
……どう説明すりゃいいんだ。
口下手なリヴァイは適当ないい言葉を見つけられない。
ヒヒン! ヒーン!
そのとき仲睦まじく立っていたオリオンとアルテミスが、相次いで軽くいなないた。
「アルテミス! オリオンも疲れは出てないようね? 良かった!」
マヤが馬たちに駆け寄って、しばらく首すじを撫でたり笑いかけたりしていたが、急にくるりと振り向いた。
「みんな元気そうで嬉しい。見てください、アレナとアレースが鼻で押し合いっこしてる」
リヴァイがペトラとオルオの馬アレナとアレースの方を見れば、互いにフンフン言いながら鼻を押しつけ合っている。
「仲がいいな」
「ええ、とっても。アルテミスとオリオンも負けないくらい仲がいいけど。兵長…」
馬のそばから数歩リヴァイの方へ歩み寄って。
「呼んでくださってありがとうございます。馬たちの様子がわかって良かった。結構初日は飛ばしたし、気になってたの」
「あぁ」
……完全にマヤは、俺が馬の様子を知らせるために、ここに呼んだと思っている。別にそれでもいいが…。