第30章 映る
「……あの子?」
「わかってるだろ。マヤのことさ」
サビは今一度、リヴァイの匂いを確かめるように大きく吸いこんだ。
「間違いない。深く核のところにいる。まだ比較的新しいはずなのに、まるで生まれたときから…、いやそのもっと前からひとつのように絡み合って食いこんでいる」
「………?」
……何を言っている?
リヴァイにはサビの言いたいことがさっぱりわからない。
……真面目くさって話を聞いていたが、ただの戯言なのかもしれねぇな…。
「どう思おうが、かまわないよ。あんたが信じようが信じまいが、あたしには関係ないし匂いだって影響を受けない。いつでもそこにあるからね、匂いは。あたしにはそれが、少しばかり人より見えるってだけさ…。さて」
サビはまるで嗅ぎ疲れたかのように、ふうっとため息まじりに首をまわすと、くるりとリヴァイに背を向けた。
「年寄りはもう寝るとするかね。リヴァイ兵長、あんたはもう少しここにいるがいい」
「……は?」
“どこにいるかは自分で決める、指図される覚えはねぇ” とリヴァイは思ったが。
「そう噛みつくんじゃないよ。あたしは好意で言ってるんだ。久しぶりにいい気分になる匂いを存分に嗅げたからね。マヤにここに来るように言っておく」
「………」
リヴァイは難しい顔をして、答えに困窮する。
礼を言うのも変な話だし、余計なことはしなくていいと怒るのも大人げない。
……クソッ、こうやって迷ってるのもすべて見えてるんだよな。いや見えてるってのは違うか、めんどくせぇな!
「そうさ、そのとおり。全部見えてるのさ。あたしゃもう行くよ、おやすみ」
振り返りもせずにサビは片手を一度軽く上げると、そのまま丸太小屋の方へ消えた。
「兵長…!」
マヤが小走りに駆け寄ってくると、月にかかっていた雲も流れていく。
「ごめんなさい、待ってるなんて知らなくて…」
見上げてきたマヤの頬が、
「何かご用ですか?」
月明かりでも赤く染まっているのがわかる。