第30章 映る
「だよね」
オルオの心中など全く察することなくペトラは華麗にスルーして、
「マヤ、ぴたりと言い当てられてびっくりしたんじゃない?」
くるりとオルオに背を向けて、マヤに話しかけている。
この状況でミケは、ほっと胸を撫で下ろしていた。
皆の前で “気に入りの娘” だの “前途多難” だの言われてマヤへの恋心を暴露されたも同然であるが、マヤとリヴァイの関係を嗅ぎ当てたことへ皆の関心が集まり、すっかりミケの気持ちは話題から消えた。
……全く余計なことを言ってくれたものだな。
そう思いながらサビを見れば、何もかも見透かしたような顔をして椅子に座っている。
………!
ミケは息をのんだ。
……こんなに小さかったか…。
ちんまりと椅子におさまっている祖母が、記憶にある姿とは違っていてあまりにも小さい。よく目をこらせば、顔も首も手の甲も皺だらけだ。
ミケの様子に気づいたのかサビは立ち上がると、すっとそばに寄ってきた。
「……同情なんかいらないよ。人は誰でも年を取る、それだけのことさ」
そうささやいてからパンと大きく手を叩いて、皆を注目させた。
「あたしはもう寝るよ。あんたたちも寝た方がいい。なにしろ朝は早いからね、あの子たちがいるから」
サビは外で眠っている鶏たちの方をあごで指し示した。
「朝のコケコッコーか!」
「あれだけ数がいたら、うるさそうだな…」
「でも卵いっぱい食ったしな…、うるさいのも仕方がないんじゃねぇの」
「そうね。元気に鳴いて卵を産んでもらわないとね!」
ペトラの言葉を、寝室に行きかけていたサビは聞き逃さず振り返った。
「ペトラ、朝に鬨の声をあげるのはおんどりだよ」
「えっ!」
「朝に大声で鳴くのはおんどり、卵を産むのはめんどり。うちの子たちは特に早いからね、まだ暗いうちから鳴くよ」
目をまん丸にして驚いているペトラに優しい声をかけて、サビは一階にある自分の小さな寝室に入っていく。
「あぁ」
扉を閉めるときに何かを思い出して、また振り返る。
「そういえばリヴァイ兵長が馬のところで待ってるよ、マヤ」
「えっ!」
今度はマヤが目を丸くする。
「早く行っておやり」
サビはまた優しい声を出して、今度こそ “おやすみ” と寝室の扉を閉めた。