第30章 映る
「昔から素直じゃないからね、ミケは。図体がでかいばかりで鼻もろくに利かないし、愛想もない。それがどうだい、気に入りの娘の前だとこうもまぁ変わるもんかね、鼻の下が伸びきってるときたもんだ」
「………」
サビに痛いところを突かれて、ミケは何も言えずにいる。
おのれの胸に密かに抱いているマヤへの想いは、今この場にいるマヤ本人とリヴァイ班の四人の誰も気づいていないはずだ。知っているのはエルヴィンと、動物的本能でリヴァイが勘づいているのみ。それをこんなところで不意に暴露されそうになって、嫌な汗が全身から噴き出してしまいそうだ。
「おや、黙っているところを見ると、あたしの鼻もまだまだ健在ってとこだね。まぁ確かにマヤは可愛らしいし、気のいい娘さんだよ、お前が気に入るのも無理はない。だがね、なかなか前途多難だよ残念ながら。マヤはもう他の男のもんだ、そうだろう?」
サビの見えていない目が、まっすぐにマヤを射た。わずかに焦点が合っていない。
「サビさん、あの…」
何をどう答えればよいかわからず、マヤがまごまごしていると。
「照れなくていいんだよ、リヴァイ兵長と想い合っているのは、ひと嗅ぎすればわかるんだから。そうなんだろう?」
もう肯定するしかないと、目をぎゅっとつぶってマヤはひとこと。
「はい…」
「やっぱりね」
当てて当然といった態度でいるサビを目の前にして、リヴァイ班が興奮しだした。口々に隣に座る相方と話している。
「匂いで兵長とマヤがつきあってるのわかるって、すごくないか?」
「それってどういう匂いなんだ?」
「さぁ…?」
エルドとグンタは首をかしげている。そしてオルオとペトラは。
「えっ、もしかして誰が誰を好きとかもわかんのか?」
「そういうこと?」
「やばくないか? やばいよな!」
「何を焦ってんの。もしかしてオルオ、好きな人いるの?」
「い、い、いる訳ねぇだろ!」