第29章 カモミールの庭で
……いやいやいやいや、ふざけんな!
レイモンド卿はもう、訓練の見学は飽きるくれぇしたじゃねぇか。
というか、そもそもマヤを見てぇだけで訓練に興味があるかどうかも疑わしい。
そんなやつに、なんでわざわざこっちから招待しなくちゃいけねぇんだ。
リヴァイの心の声が暴走していくのに呼応して、ひそめられている眉が不機嫌そうに動く。
……大体昨日の夜はろくにマヤの顔を見ることもできずに別れさせられたうえに、深夜までクソ薄ら髭の酒の相手だ。
今日は今日でマヤとはおはようを一言交わしただけだ。応接室でエルヴィンが俺の武勇伝だとかいって大げさなほら話をべらべらと語り出したかと思ったら、突然入ってきたレイモンド卿がマヤをかっさらっていきやがった。
薔薇園だかなんだか知らねぇが、二人で消えてなかなか帰ってこねぇとイライラしていたら、昼になってやっと帰ってきた。
マヤの隣にでも座ってメシかと思えば、あのクソ公爵夫人が “マヤさんはあたくしたちといらっしゃいな。女は女同士が一番なのよ” とかなんとかほざいてマヤを連れていく。
幸い船の出航時間があるから、俺たちは屋敷を出なければならねぇ。
やれやれ、やっとこの忌々しい屋敷から出られると思っていたら最後の最後に公爵夫人のところから帰ってきたマヤが、あろうことかレイモンド卿と二人でこそこそと何か内密の話をしていやがる…。
イライラMAX、ストレス無限大の状態で連絡船に乗りこんだリヴァイにとって、ようやく訪れたマヤとの時間。エルヴィンが気を利かせて船室に二人きりにしてくれた甘い時間… になるはずだったのに。
何かを思い詰めた顔をしてせわしなく椅子に座ったマヤの口から発せられた言葉は “レイさんを招待できませんか?” だ。
………あ?
まさに “あ?” だ。
何を考えていやがる。
ふざけんな。
俺は冷たく言い放つことしかできねぇ。
「何言ってんのか全然わかんねぇな」