第29章 カモミールの庭で
レイはそう言いきったあとにマヤの方を体ごと向いて、“どう思う?” とマヤの意見をうながした。
「レイさんが応接室に来る前にも公爵夫人が言っていたんです…、ラント前侯爵夫人が誰が求婚しても断るって。そのときのラント前侯爵夫人は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいていました。私はラント前侯爵夫人のことを知りませんし、誰とも再婚しないのは単に亡くなったラント侯爵を愛してらっしゃるのかとそのときは思いました。でも今レイさんの話を聞いたら、そうじゃなかったのかなとも思いますし、正直なところ前侯爵夫人のお気持ちは私にはわかりません」
マヤの言葉を真剣に聞いていたレイだったが、途中から目をぱちぱちさせている。
「なぁ…、その公爵夫人前侯爵夫人ってのややこしいしやめねぇか?」
「えっ、でも公爵夫人と前侯爵夫人なんですから…」
「そうだけどよ…。コウシャクコウシャクで訳わかんねぇから、とりあえずイルザはイルザでいいだろ」
「じゃあ…、レイさんの前では公爵夫人はお母様、ラント前侯爵夫人はイルザさんと呼びますね」
「そうしてくれ」
レイは大きくうなずくと、あらためてマヤの意見に対して。
「で…、そうだな、オレは確信してるんだがマヤは今日会ったばかりのイルザのことなんか… わからなくて当然だよな。それでだ、このあとマヤにさぐってほしい」
「さぐるって何を…!?」
「おふくろのことだ、マヤを手元に置いて恋愛話をしたいに決まってる。恐らく “女は女同士が一番楽しい” とかなんとか言って親父や団長からマヤを奪うだろうからマヤはうまくおふくろの相手をしながら、イルザの想い人がリックかどうかさぐってくれ」
「……はい…」
少し疑わしそうなマヤの声。
それもそのはず、内心では “レイさんは自分では確信しているのに、どうして私にさぐらせるような真似を…?” と思っているのだ。