第29章 カモミールの庭で
「セバスチャン、お前か…。まぁいいだろう」
公爵はレイに伝えたのが有能な執事長のセバスチャンだと知ると、すぐに引き下がった。そして息子に念を押す。
「レイ、私とエルヴィン君たちの邪魔をしないでくれよ?」
「わかってるよ。っていうか邪魔なんかもともとしねぇし、大体なんでオレが “必要最低限な者” のなかに入ってねぇんだ…」
不服そうなレイだったが、ハッと何かに気づいたようで顔を輝かせた。
「父上は団長や兵士長と巨人談議ができればいいんだろう? マヤはそんな血なまぐせぇ話をするより、薔薇園でも見る方がいいんじゃねぇか?」
「えっ…」
また自分に注目が集まり、困った様子のマヤ。
レイの提案に一番に賛成したのはアマンディーヌだ。
「若い二人が薔薇園でお散歩だなんてロマンチックね! ぜひ行ってらっしゃいな」
「でも…」
「大丈夫よ、マヤさん。別にレイと恋人になれと言っているのではないの。あなたにふられた不憫なこの子のために、あなたの時間を少し分けてくださいな?」
「……母上!」
口を出してきた母親にレイは困った顔をする。
「マヤ、すまねぇ。強要する気はねぇんだ。秋薔薇には少し早ぇが、綺麗に咲いているのもあるし…」
薔薇園には行ってみたいが今この状況で行ってもいいかどうか判断できなくて、マヤはエルヴィンの顔をうかがった。
「行ってきなさい」
エルヴィンは快く背中を押してくれた。
「リヴァイ、いいな?」
「勝手にすればいい」
リヴァイはそっぽを向いているが、その他はエルヴィンをはじめ皆がにこやかに薔薇園に行けと笑顔で命じている。
「……わかりました。案内してください、レイさん」
「よしきた!」
小躍りしそうな勢いでレイは、マヤが立ち上がるのに片手を取ってエスコートすると、リヴァイの方は見向きもせずに応接室を出ていった。
扉が閉まる直前にマヤが振り返ると、リヴァイは眉間に皺を寄せて大理石の床を睨んでいた。