第15章 壁外調査までのいろいろ
目が覚めたときには、夜の8時をとうに過ぎていた。
窓の外はすっかり陽が落ちて、静かに闇がその手を伸ばそうとしている。
……ん…。
ゆっくりと起き上がると、マヤは首を左右に振ってみた。身体はまだ怠いものの、割れるような頭痛は治まっている。
ランプは灯さずに月明かりだけを頼りに壁に掛けてある鏡の前に立ち、さっと乱れた髪と兵服を直す。
そのまま扉に向かったが、ふと立ち止まると入浴セットを取りに戻った。
……食事をしたら、その足でお風呂に入りにいこう。
本当は真っ先に入浴してさっぱりしたかったが、食堂が閉まってしまう。
マヤは部屋を出ると鍵をかけ、食堂へ急いだ。
時間が遅いからか、食堂には数人しか残っていなかった。その人たちは明らかに食べ終えていて、食後の歓談をしていた。
カウンターに行くがもう夕食は用意されておらず、厨房の奥からは洗い物をする音がカチャカチャと聞こえてくる。
「すみません」
声をかけると勢いよく水の流れる音と食器のカチャカチャ鳴る音がやみ、前かけで手を拭きながらマーゴが出てきた。
「あぁ マヤ、遅いね!」
「マーゴさん、すみません。お願いできますか?」
「もちろんだよ。今温めるから座って待ってな!」
豪快に笑うマーゴは40過ぎのよく笑う女性で、街から通いで調査兵団の兵舎の食堂に勤めている。食堂で働いているのはこのマーゴを含めて四人いた。
マヤは四人の中でマーゴが一番話しやすいと感じていたので、今晩の当番が彼女でほっとした。
四人の中に一人だけ男性もおり、その彼… ジムは料理の腕は確かだが非常に愛想が悪かった。
以前にも今日のように遅い夕食を頼みにきたときがあり、その日厨房にいたのはジムだった。
ジムはマヤをジロッと一瞥すると、何も言わずに夕食を温めカウンターにガチャンと大きな音を立てて乱暴に皿を置くと皿洗いに戻っていった。
その背にすみませんでしたとマヤが謝れば、わざわざ戻ってきてこう怒鳴ったものだ。
「謝るくらいなら、こんな時間に来るな!」
それ以来マヤはジムを、少し苦手に感じていた。