第14章 拒む
迫ってきていたリヴァイの顔は止まったが、少し間違えばくちびるがふれそうな距離だ。
「分隊長は… ミケ分隊長には…、ちゃんと大切に想われてる方がいます!」
「あ?」
極めて近い距離で眉間の皺が深さを増していく様子が、マヤにはよく見えた。
次の言葉を口にするのはためらわれたが、マヤの脳裏にペトラが肩を震わせながら泣く姿が浮かんだ。その途端に胸の奥底からこみ上げる強い感情に支配され、後先考えずに口走っていた。
「兵長は… “女なんて抱きたいときに抱ければいい” って思ってるんですよね?」
マヤの感情的な声がほとばしった瞬間、リヴァイの瞳は曇り口元は苦痛にゆがんだ。
黙っているリヴァイに、激情に駆られたマヤはさらに叫んだ。
「どうなんですか? 答えてください!」
怒りだろうか、強い感情に揺さぶられたマヤの大きな瞳には涙があふれそうなくらいに溜まり、頬は紅潮している。
「……その… とおりだ…」
のろのろとリヴァイが認めると、マヤは目をぎゅっとつぶった。その目尻からは涙が伝い落ちる。
「女性をそんな風に見ているあなたとミケ分隊長では、同じ男性でも全く違います。一緒にしないでください!」
マヤの頬を伝わる雫を見つめるリヴァイの瞳は、みるみるうちに色をなくした。
蝋のように白い顔が、マヤから離れていく。
「……ゆっくり休め」
そうつぶやいて立ち去る背中は、やけに小さく見えた。
部屋に入るなり、マヤはベッドに倒れこんだ。
……“女なんて抱きたいときに抱ければいい” って思ってるんですよね?
……その… とおりだ…。
マヤの朦朧とした頭に青白い顔が浮かび、知りたくもなかった答えが響く。
「兵長… そんなこと… 聞きたくなかった… 嘘… でしょう?」
気怠い全身は、底なし沼のように感じられるベッドにどんどん沈んでいく。
「どうして… 否定しな… いの…」
マヤが意識を手放したとき、その頬には幾筋もの涙が光っていた。