第14章 拒む
「……痛っ…」
目覚めは最悪だった。
唐突に頭が割れるような痛みに気づきまぶたを開けると、そこは見慣れた私室。
……あれ? どうしたんだっけ…?
マヤはズキズキと痛む左のこめかみを押さえつつ、思い出そうと努力する。
……そうだ…。
昨日… 飲み会に連れてってもらって、ハンジさんに美味しいお酒をすすめられて…。
……えっと…。
モブリットさんやエルヴィン団長を好きかと訊かれたんだっけ…。
ラドクリフ分隊長やミケ分隊長も…。
あれ…? それからは…?
「……痛っ…」
思い出すために頭を働かせようとしたら、さらに頭痛が激しくなる。
……何も… 覚えてない…。
どうやってこの部屋に帰ってきたのだろう。
胸元に目をやると昨日選んだブラウスではなく、きちんと部屋着のワンピースを着ている。
………!
ズキズキ痛む頭を抱えながら、時計を見てマヤは飛び起きた。
「やだ! こんな時間!」
慌てて兵服に着替え、身支度もそこそこに部屋を飛び出した。
午前の訓練は、対人格闘だ。
体調は最悪だが、何か腹に入れた方が良い気がして一目散に食堂に向かう。
食堂に入れば、早速名前を呼ばれた。
「マヤ~!」
声の持ち主を確認したマヤは、カウンターには向かわずに呼ばれたテーブルへ急いだ。
「ハンジさん、おはようございます」
「おはよ~! よく起きてこられたねぇ! 今日は一日死んでるかと思ったよ」
マヤはハンジの斜め向かい、モブリットの隣に腰をかけながら顔をしかめた。
「……あの… ものすごく頭が痛くて、おまけに何も思い出せないんですけど…」
モブリットがすっと席を立つ。
「覚えてないんだ~! まぁ そうだとは思ったけど。ってか、人間覚えてない方がいいこともあるよねぇ!」
ニヤニヤ笑うハンジの顔を見たマヤは、段々と心配になってくる。
「ハンジさん… それ、どういう意味ですか?」
「うーん、どうしようかなぁ! 教えてあげてもいいけどなぁ」
「もしかして… 私、何か大変な失態を仕出かしたんでしょうか?」
おろおろしているマヤの前に、朝食のトレイが置かれた。
顔を上げると、モブリットが優しく微笑んでいた。