第29章 カモミールの庭で
壁外調査から帰還した調査兵たちは、淡々と任務をこなした。
馬や馬車の手入れ、立体機動装置の整備と片づけ、殉職者の埋葬…。ただし遺体もしくは体の一部でも残っている場合に限られてしまうが。
壁外調査では遺体はもちろん体の一部でも持ち帰ることができたなら、それは幸運の部類に入る。
遺体は兵舎から離れた場所にある合同墓地に埋葬される。
そして遺品が故郷の家族に届けられる。
届けるのはその兵士が所属していた班の班長、もしくは分隊長。または同郷の者や、同郷でなくても親しくしていた者の場合もある。
要するに特に決まってはいない。そのときの状況に応じて臨機応変に決められていく。
同じ班内、分隊内で犠牲者が出なかった場合は、割合すぐに通常の訓練生活に復帰する。
マヤも今回はそうだった。
帰舎翌日の午後にはもう、通常の訓練に復帰していた。そしていつもどおりに午後の訓練の第二部の時間には、ミケの執務室にいた。
第一分隊には殉職者どころか怪我人も出ていなかった。
だからミケが上に提出する報告書も大したものではなく、すぐにかたがつくはずだった。
「分隊長、あとはこちらにサインを…」
報告書の作成を手伝っていたマヤが、そうミケに声をかけたときに扉がノックされ、アーチボルドが入ってきた。
「失礼します。あぁマヤ、ちょうどいい」
第三分隊の分隊長ラドクリフ・キュナストの副長であるアーチボルド・ガードナーは、入ってくるなり執務の補佐をしているマヤを見つけて声をかけてきた。
「アーチボルドさん、お疲れ様です」
「お疲れ。マヤも聞いてくれ…、というかマヤのことなんだけど」
「え?」
……私のこと? 一体なんだろう?
アーチボルドはミケの前まで行くと、話を切り出した。
「ミケ分隊長。ラドクリフ分隊長からの伝言を預かってきました。このたびの壁外調査で我が第三分隊から数名の犠牲者が出ました。つきましては遺族訪問をマヤに手伝ってもらいたいのですが」
「マヤに? なぜ? 同郷の者か?」
「いえ、同じ訓練所ではありますが同郷ではありません。ただ遺された私物から、マヤが行くのが適任だと分隊長が判断しまして…」
「そうか。その兵士の名は?」
「ザック・グレゴリーです」