第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「じゃあどうしてそんなに見てるんですか?」
今度は横に座るギータが訊いてくる。
「今全部食べるかどうかを考えていたの。ほら、私の見張りは夜中でしょう? おなかが空くかもしれないから、残しておこうかなって」
そう言いながら手の中にある二個の野戦糧食を眺めた。
「あぁ、なるほど。オレは先に食べてしまう派です。ダニエル、お前は?」
「俺もかな。今腹が減ってるんだから、残しとくなんてできねぇっす」
ダニエルは口いっぱいに野戦糧食を頬張っている。
「ふふ、そうよね… それが正解だね! ダニエルが美味しそうに食べるから、私も今残すなんかできなくなっちゃった。……いただきます」
マヤ自身は思いきり大きく口を開けて野戦糧食にかぶりついたつもりだが、もともとの口が小さいゆえ可愛らしいひとくちになっている。
そんなマヤの様子をギータは間近で見ながら、ドキドキしている。
小さな口からのぞく白い歯。くちびるは艶々していて、よく見れば野戦糧食の粉が少しついている。
……口についてる…。
目が離せずにいると、ぺろりと紅い舌が出てきて一瞬でくちびるの粉を舐め取った。
………!
そのなにげない仕草にギータはずきんと身体が疼いて、そばかすだらけの頬がみるみるうちに赤くなってしまった。
「ギータ、何赤くなってんだ?」
唐突にダニエルに突っこまれて焦ってしまう。
「えっ、いや、別に? 野戦糧食って美味いよな! 腹減った、いただきます!」
いただきますと叫んだ勢いで野戦糧食を口に放りこみ、ボリボリと噛み砕いた。
ここにジョニーがいたならば、ギータの顔が赤くなっていた理由に気づいていたに違いない。しかしダニエルはそういった恋心に疎くて何も気づけなかった。
「美味ぇか? いや不味くはないけどよ。でも大して美味くもねぇよな?」
すごい勢いで野戦糧食を食べているギータを不思議そうに見ながら、ダニエルは首をかしげている。
「よっぽど空腹だったのね、ギータ」
ダニエルと同じくギータが焦って野戦糧食にかぶりついている理由など全然理解していないマヤは、豪快な後輩の食べっぷりを見て微笑んでいる。
「ただいま戻りました~」
陽気な声が部屋に入ってきた。見張りをしていたジョニーが戻ってきたのだ。