第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
立ち去る二人の背中を眺めていたペトラは、気がつけばつぶやいていた。
「いつも仲良さそうでいいな…」
ペトラはリヴァイ班唯一の女性兵士、紅一点だ。
任務に男も女もないけれど、また壁外調査で命を懸けているときに女同士で仲良くも何もないけれども。
それでもちょっとした訓練の合間や、今のような任務でコンビを組むときに気心の知れた女子がいることは正直うらやましい。
「何をぼうっとしてるんだ?」
「え?」
急に背後からオルオの声がして驚く。
「指をくわえて見てたじゃねぇか」
「指なんかくわえてないわよ! ……ただちょっと、いいなぁと思っただけ」
「何が?」
「同じ班に仲のいい人がいることがよ」
「は? 俺たちだって仲いいだろ? エルドさんもグンタさんもいい人だし」
「そうだけど…、女子じゃないじゃない、エルドさんもグンタさんも」
「どうしたんだよ、急に。同じ班に女子が一人なんて普通だろ? マヤだってそうだし、大体女子の方が人数が少ないんだからよ…」
「そんなことはわかってるわよ! ただちょっと楽しそうだなって思っただけ!」
ペトラは少し機嫌が悪そうに怒鳴ると、まだ馬柵に繋がれていない馬の方に行ってしまった。
「なんだよ、あいつ…」
空き地に集められた馬を馬柵に繋ぐために奔走しているペトラを眺めて、オルオはぼやく。
「女子とつるみたいってか? そんなの所詮無理な話だろ…。あぁでも、そういえば…」
急にオルオは思い出す。一番最初の壁外調査で、同室のアンネが死んだと落ちこんでいたペトラの横顔を。
……強く見えても本当は、どこかでいつも怖がっているのかもしれねぇな。淋しいときだってあるだろうし。
「俺がいるじゃねぇかよ。だから二度とあんな顔はさせねぇ」
オルオはあらためてペトラを想う心を強くして、人知れずこぶしをぐっと握りしめた。