第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「そうだね! 今日は死傷者ゼロだし、明日もこの調子で頑張ろう。あっ、そうだ… 死傷者ゼロで思い出した! 奇行種が出たみたいだけど、ペトラは見た?」
質問してきたのはニファ。
「黒の信煙弾は見たんだけど、うちらの方には奇行種は現れなかったんだ。ねぇ、ナナバさん?」
「うん、ハンジさんが信煙弾を見て奇声を上げただけで終わったよね」
「あははは…」
奇行種の出現を知らせる黒色の信煙弾を見て大喜びしているハンジを容易に想像できて、ペトラは苦笑いをした。そして奇行種の末路を伝える。
「その奇行種なら兵長があっさりと仕留めましたよ」
「「おぉ、さすが!」」
声を合わせて感嘆する先輩二人の反応に気を良くして、ペトラはつづける。
「すごく足の速い奇行種で、信煙弾を確認したと思ったら後ろからすごい勢いで駆けてきたんです。兵長に命じられてエルドさんが顔をめがけて撃った信煙弾に奇行種がひるんだすきに、兵長は馬の背に立ったと思ったら奇行種にアンカーを撃ちこみ、天高く飛び上がってからうなじを一発で削ぎ落としました」
「へ~! 見事な連携だったろうね、見たかったな」
ナナバが言えば、ニファもうらやましがる。
「ペトラはリヴァイ班だから、兵長の華麗な削ぎ技を近くで見れていいね」
「ええ、まぁ…。でも大概はゆっくり見物できる状況でもないですけど…」
「それもそうか…」
ニファが納得したかのようにうなずいたとき、“おーい!” と声が聞こえた。
三人が振り返ると、遠くでゲルガーが腰に手を当てて立っている。
「ナナバ、ニファ! さぼるなよ、馬の水の調達を早くしろ!」
「あぁ、わかってるよ!」
面倒くさそうに叫び返すと、ナナバはペトラに “邪魔したね!” と声をかけてニファと立ち去った。