第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
信煙弾を認識してから奇行種の目視確認までのあまりの早さに、一瞬顔色を失っていたタゾロだったがすぐに立ち直り、いち早く信煙弾を撃とうとした矢先に、奇行種は突如向きを変えた。
ひょろひょろと痩せ細って駿足だけが取り柄らしいその奇行種は、長距離索敵陣形の先頭に向かって爆走する。
「馬鹿か、そっちに行けば…」
タゾロは奇行種の出現を知らせる黒の信煙弾を発射しながら叫んだ。
「リヴァイ班がいるんだぜ!」
タゾロの罵倒も次々と放たれる信煙弾も気にすることはなく、陣形の扇の要を目指すかのように奇行種は走る。
その速度はこれまでに遭遇した奇行種のなかでも抜きん出て速く、あっという間に視界から消えた。
「タゾロ、マヤ、ギータ、ジョニー、ダニエル! 皆、無事だな?」
「「「はい!」」」
奇行種の出現により、かなりの間隔をあけて走行していたミケ班全員がその距離を縮め、集合している。
次に打ち上げられるはずの信煙弾を待ちながら馬を走らせているが、黒の信煙弾が次々と上がった以外は動きがなかった。進路方向を示す緑も上がらない。
「……何も上がらねぇな?」
ジョニーがダニエルに言った言葉にタゾロが答えた。
「誰かが削いだか、あのスピードのままどこかあさっての方向へ駆け抜けていったか…。ですよね、分隊長?」
「あぁ、そんなところだろうな。進路に変更はなさそうだ。配置に戻れ」
ミケの命令を受けて、新兵三人組は隊列の後方に戻っていった。
「分隊長、エリー城跡に到着したら時間をください」
タゾロが乞う。
「あぁ、何か… 鳥がなんとか… の話か?」
「聞こえてましたか!」
「いや、聞こえてはいない。少し匂っただけだ。詳しくはエリー城跡で話してくれ」
「了解です!」
隊列の先頭を行くべく離れていったミケの背中を見てタゾロはマヤに笑いかけた。
「地獄耳じゃなくて地獄鼻だな、分隊長の場合」
「あはっ、ですね!」
「よし、じゃあ夜にでも二人で分隊長のところに行こう」
「ありがとうございます。では私も戻ります」
マヤはタゾロに礼を述べると後ろに下がった。
その後調査兵団は運良く巨人と遭遇することはなく、無事にエリー城跡に到着した。