第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「鳥です」
「……は?」
これ以上にないほど真面目な顔をして、全く訳のわからないことを言いきるマヤと馬を並べて走っているなんて、タゾロは頭がおかしくなりそうで叫びたくなる。
……わかるように話せよ!
だが後輩思いのタゾロは優しく訊いた。
「ん? 鳥がどうした?」
「私…、三回目の壁外調査くらいからずっと気になっていたことがあるんです」
「三回目…?」
なぜに三回目? と思わず口を挟んでしまう。
「それは…」
マヤはまっすぐ前方を見すえて、思い出したくもない初めての壁外調査の記憶を掘り起こした。
「余裕がなくて…。最初は初めて見た巨人に圧倒されて、同期が次々と亡くなって、恐怖でどうしようもなかった。二回目も同じようなものです。でも三回目は少しだけだけど、ちょっとは周りを見る余裕ができて…。空を見上げたんです、こうやって何度も何度も」
記憶を追体験するかのように顔を上げる。
「空には翼を広げた鳥が私たちと同じ方向に飛んでいました。私は無意識のうちに目で追っていた…、このまま一緒に目的地まで飛んでくれたら楽しいなと思ったことまで憶えています。けれども信煙弾が上がって、鳥たちは急に向きを変えていなくなってしまった…」
「信煙弾の発射音に驚いたんだろうな」
「私もそう思いました。けど次の壁外調査でもその次でも同じようなことがあって、そしてついに信煙弾が発射される前に鳥が飛び去ったのを目撃したんです。それからは信煙弾の音に驚いたからじゃない、巨人が来るからじゃないかって…」
「いや、ちょっと待て!」
タゾロが否定の声を上げる。
「巨人は鳥には目もくれないぞ? 馬も食わないし、人間以外は興味がないみたいだ…。だから襲ってこない巨人を鳥が恐れるのは違うんじゃないか?」
「そうですね、巨人は馬も鳥も襲わない。だから鳥が巨人を避ける必要はないはずです。でもそんな単純なことじゃない可能性だって…」
「可能性? たとえば?」
「鳥にしか聞こえない周波数の音を巨人が出しているとか、同じく鳥にしか嗅げない独特の匂いを発散しているとか、もしかしたらあの統一性のないグロテスクな見かけが見るに堪えないとか…」