第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
すでに長距離索敵陣形になり、順調にエリー城跡を目指してばく進していた調査兵団。
「今日はおだやかだよな。このまま巨人に遭わなければいいが…」
ミケを筆頭に行軍していた第一分隊第一班、通称 “ミケ班”。ミケの次にはタゾロがつづき、そして件のセリフをつぶやいている。
「ヤツらに遭いさえしなければ、エリー城跡に早く入れる。宿営はやっぱ余裕を持って…」
「タゾロさん! 何をぶつぶつと、つぶやいているんですか?」
「あぁ、マヤ」
タゾロは後ろにいたマヤがいつの間にか並走していることに、今気づいた。
「今日は壁を出てからまだ一度も巨人と出くわしてないだろう?」
「ええ」
「このまま一匹も拝むことなく、エリー城跡に行けたらいいなと思ってな。ミケさんの話ではエリー城跡はかなり古いらしいから、もしかしたら野営かもしれない。そうなったら設営に時間も取られるし、一刻も早く到着したい」
「そうですね。やっぱり壁外調査は巨人に遭遇しないことが一番。みんなそう思っていると…、あっ」
何かに思い当たって言葉を止めたマヤ。
「ハンジさん以外」「ハンジ分隊長以外」
次に口をひらいたときには見事にタゾロとシンクロした。
思わず顔を見合わせる。
「あははは! 本当にハンジ分隊長には困ったもんだ」
タゾロは愉快そうに笑い、マヤも微笑んでうなずく。
「あぁ本当にこのまま、何事もなくいけよ…!」
タゾロの祈るような声を聞きながら、マヤは空を見上げた。
朝からずっと吹いている風のせいなのか、雲ひとつない真っ青な空。
もうすぐ9月とはいえまだまだ暑い夏の日ではあるが、いつもは50メートルの壁に囲まれて暮らしているからなのか、そこから飛び出してあたかも自由を手に入れたかのように馬を駆って疾走すれば気分は爽快、夏の暑さなど微塵も感じられない。
その気持ちの良い夏の空に雲はなく、その代わりに我が物顔でいるのは鳥たち。それぞれつがいなのか、親兄弟なのか。あちらこちらに二匹もしくは三匹と連れ立って飛んでいる。
「大丈夫ですよ、タゾロさん。巨人は現れないわ…」
「え?」
空を愛おしそうに見上げていたかと思えば、巨人が現れないと言ってきたマヤをタゾロは不思議そうに見つめた。
「それは…、どういう意味なんだ?」