第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「おい、始まるぞ」
リヴァイの低い声が駐屯兵団の援護班班長の大声にかき消される。
「開門30秒前!」
それと同時に待機していた調査兵が鬨の声を上げ、馬たちが興奮を察知していななき、群衆もこぶしを突き上げた。
「前進せよ!」
エルヴィン団長の号令とともに巨大な門から砂埃を舞い上げながら、壁外に出陣していく。
「進め! 進めぇぇぇ!」
どぉぉぉぉぉぉぉ! ごぉぉぉぉぉぉぉ!
もうその低い地鳴りのような音が、兵士たちの雄叫びなのか、馬のいななきなのか蹄の音なのか、はたまた見送る駐屯兵や興奮した群衆の発する歓声なのかは誰にもわからない。
「ひゃっほ~!」
ただひとりハンジだけが地鳴りの音とは違った、楽しくてたまらないといった奇声を上げていた。
「さ~て今回は、どんな子に出会えるかな!?」
「分隊長、遊びじゃないんですよ!」
「当たり前だよ、モブリット。私はいたって真面目だ、おっと!」
崩壊した家屋の陰からふいに伸びてきた巨人の腕をかわしたハンジは、叫んだ。
「危ないな~、隠れていたんだね悪い子だ! 頼んだよ!」
「任せとけ!」
軽快に返事して援護の駐屯兵が巨人のうなじを削ぐ。
それを背後に見ながらひたすら前進しつつハンジは片手を振り上げた。
「いざ行かん! 巨人の待つ地平線のかなたへ!」
「……待たれちゃ困りますがね…」
ご機嫌のハンジとモブリットのぼやく声は、馬の大群が大地に響かせる轟音に消されていく。
こうして8月20日、夏の爽やかな風が草原を吹き渡るなか壁外調査が始まった。
今回の目的も、ウォール・マリアを奪還するための兵站拠点を設営し、補給物資の備蓄をすることである。
目的地は前回の兵站拠点のスペリオル村よりさらに遠くのエリー城跡。城跡といっても朽ち果てた石造りの屋敷と、それを取り巻く小さな家が点在する小規模な集落らしい。
道中運良く巨人に遭遇せずに進軍できたならば、その日のうちにたどりつける距離である。