第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
詩集といえばタイトルが、ずばり詩人の名を冠したものが多い。
テーゲ詩集、ツーキ全詩集、ワースワーズ詩集…と枚挙にいとまがない。
定番で高名な作品よりも今は、もっと軽やかで肩のこらない作品を読みたい。
そんな想いで見上げている本棚。
「あっ…、見つけた」
マヤの細く白い手が伸びた先には “ふわり” という真っ白の文字が、目の覚めるような青い背表紙の上で踊っていた。
手に取るとその名前のとおりにふわりと軽くて。ぱらぱらとめくれば飛びこんできた言葉は。
“どんなときにもふわりと飛んでけ、こころよ”
「これを読もう」
直感的にそう思って、小さな詩集を握りしめた。
図書室の一番奥には小さなソファがある。詩の言葉にもっと耳を傾けたくて、マヤはちょこんと座った。
先ほどは適当にめくって見つけた途中のページの言葉だったが、今度は最初からきちんと読みたい。
“ふわり ──あなたの想いをはじめるために”
空のかなたにさがしにいこう
あなたがどこかに置いてきた想いを
「……あなたがさがしているように想いもあなたを…」
「こんなところで一人で読書とはな…」
気づけば声に出していたマヤの言葉は、ふいに現れた低い声にかき消された。
「兵長…! どうしてここに?」
「クソメガネから聞いた」
不機嫌そうに答えながら、リヴァイはマヤの隣にどかっと腰を下ろす。
マヤは何も考えずに小さなソファの真ん中に座っていたので、その横に強引に入ってこられると狭くて仕方がない。腕が当たりそうで動けない。
マヤはリヴァイに当たらないように身をかたくしながら、ひらいていた詩集をぱたんと閉じた。
「何を読んでいた?」
リヴァイの視線がマヤの手もとにある青い本にそそがれる。
「詩です。今日はもう寝ようと思って、寝床で読む本を借りにきたんです。詩集なんかいいかなと思って探していたら、これが気になって」
「……ふわり?」
ぐいっと目の前に差し出された小さな詩集の表紙。リヴァイは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。