第2章 芽生える
絹のような美しい髪をタオルで丁寧に拭き終えたマヤは、水差しからコップに水を注いだ。
……今日はミケ分隊長の執務のお手伝いをすることになって…。
水をゆっくり口に含みながら思い起こされるのは、分隊長の執務室での出来事ばかり。
分隊長のスンスンが長くて戸惑ったし…、リヴァイ兵長は機嫌が悪そうで怖かったし…。
コップの水をすっかり飲み干したマヤは、これから分隊長の執務の補佐を、滞りなく務められるのかと少し不安になった。
……なんだかすごく疲れちゃった…。
明日の朝はオルオと自主訓練だし、もう寝ようっと。
布団に入りかけたときに、コンコンと扉をノックする音が響く。
扉を開けると、ペトラが入浴セットを持って立っていた。
「直接来ちゃった」
そう笑いながら部屋に入り、マヤのベッドの向かいに慣れた様子で腰かける。
ペトラの髪の先から、ぽたぽたと滴が落ちている。
「ペトラ、ちゃんと髪を乾かさないと駄目じゃない」
「平気平気! 私はマヤみたいに長くないし、ほっときゃ勝手に乾いてるから」
ペトラは薄い茶色の髪が、ふんわり肩まで伸びている。
その髪の色にまるで合わせたかのように、瞳の色も薄めの茶色だ。
同じ茶色でもマヤの髪はかなり黒に近い濃い茶色で、まっすぐ背中の真ん中あたりまで伸びていた。
マヤの瞳の色は、深みのある琥珀色だ。琥珀色の目はアンバーと呼ばれ、その中でも濃淡が色々ある。マヤは一番濃い暗めの琥珀色をしていた。
マヤの眠そうな顔を見たペトラは、ほんの少しだけ申し訳なさそうにする。
「あれ? もう寝るとこだった?」
「うん、でも大丈夫」
ペトラはこうやって夜、寝る前の時間にマヤの部屋を訪ねては、おしゃべりを楽しむことがちょくちょくあった。
それは847年春に、マヤやペトラ、オルオたち101期生が調査兵団に入団したときからの習慣だ。