第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「ナナバさん、私も訊いてもいいですか?」
今なら他に誰もいない。訊くなら今しかない。マヤは思いきって切り出した。
「もちろん。何かな?」
「ナナバさんの気持ちも…、見つかりましたか?」
「………」
答えないナナバ。訊いてはいけなかったのかと焦るマヤ。
「……ごめんなさい。あのときナナバさんも自分の気持ちを見つけたいって言っていたから気になって…」
「いや、こっちこそごめん。言いたくない訳ではないんだ。そうだな…」
ナナバは慎重に言葉を選んでいるようだ。
「私の気持ちは…、まだ森の中にいるみたいに迷ってる…。その人は多分…」
何かを言いかけたが、急に恥ずかしそうにうつむいた。その様子がいつもサバサバとした雰囲気のナナバにはめずらしくて。
マヤがその横顔を見つめると、伏せたまつ毛の驚くほどの長さに気づかされる。
「私のことを気に入っていたんだ」
「……え?」
ナナバの横顔の美しさに見惚れてしまっていたマヤは、ナナバの言葉の意味がよくわからずに訊き返した。
「それは一体どういう…? ナナバさんが気になっている人の話ですよね? その人もナナバさんのことを好きなんですか? じゃあ両想い…?」
「いや、そうじゃないんだ。新兵のときに班長を好きだった話をしただろ?」
「ええ、憶えてます。ナナバさんはその班長さんが亡くなってから好きだと自覚したんですよね?」
「そう。班長が生きているときには彼を慕う気持ちが恋だとは考えもしなかった。その気持ちに気づかなかったころ、同時にもう一人の気持ちにも気づかなかった」
「もう一人…」
「あぁ。分隊は違うのに、やたら食堂や街で偶然に一緒になる人がいてね。よく声をかけてくれて食事もおごってくれた。そしていつも…、いやなんでもない」
言いかけた何か言葉をのみこむと、話をつづける。
「私は自分が班長に恋をしているのに気づかなかったのと同じで、その人が私に好意を持ってくれていることに気づいていなかったんだ、そのときは。でも今は、きっとそうだったんだとわかる」