第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「いいってことよ! ……なぁ、腹減ったわ。食堂に行こうぜ?」
「了解」
立体機動装置のトリガーに手をかけて行こうとするマヤをオルオは引き留めた。
「あっ、ちょっと待て」
「うん?」
「ペトラに言うなよ?」
「……何を?」
「その…、さっきのペトラで俺が想像してたこと」
「言わないわよ! っていうか言えない」
「だよな、言ったら激怒しそうだもんな… あいつ」
「うん。ペトラが怒らないようになるまでオルオは頑張らないとね!」
「そうだな。まぁ俺が本気を出せばペトラだってイチコロのはず…、へ?」
気づけばマヤはオルオを置いて飛んでいる。
「おい待てよ! 人の話は最後まで聞けよグアッ… ガリッ!」
「ふふ、早くオルオ、遅れるわよ!」
オルオのいつもの舌噛みなど全く気にも留めずにマヤは軽やかに先を行く。
「この薄情者ガリッ! グアッ~~~!」
めずらしく二度連続で噛んでしまって血をまき散らしながら、オルオの絶叫は立体機動訓練の森にこだました。
もうその日の夜は来たりて。
リヴァイはひとり、自身の執務室の椅子に座ってソファを見ている。
そのソファはマヤが執務をするときに座っているもの。
軽く目を閉じれば、真摯な瞳で書類に取り組んでいる姿が浮かぶ。
あの日あの夕陽の丘で見つけたときから、つのりつづけた想いが叶って。
やっと想いが通じても、二人のあいだにある関係性は、上司と部下というつながりは、そのままだから。マヤが別れ際に “失礼します” とまるで部下のように頭を下げるのは当然のこと。
マヤは部下なのだから。
だがせっかく気持ちを通い合わせたのだから、たとえ兵舎内であっても、二人きりのときには何か特別なものを…。
言葉だったり、表情だったり、なんでもいい。
期待してしまうのは仕方ないのではないか。
そんな風に想うのは邪道なのか。
それともマヤは同じように感じてはいないのか。
……マヤの執務がミケの差し金でうまい具合に復活して、メシを一緒に食って、部屋まで送って。去りがたい特別な想い。
なのにかしこまった挨拶が否が応でも思い出させるじゃねぇか、上司と部下の関係を…。