第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「かっ、彼女らしく…」
「そっ、彼女らしく。失礼しますなんて部下の言うことだもんな。もっとこう…、可愛く… そうだな…」
オルオはもしもペトラが自分に言ってくれたら、どんな言葉が嬉しいのか妄想してみる。
いつも強気のペトラがちょっと恥ずかしそうにうつむいて。
“オルオ、今日はありがとう”
そして急に顔を上げるんだ。
あいつの瞳がうるうると潤んで、じっと俺を見てる。そして…。
“おやすみ!”
キスをせがむように少し口を突き出して、閉じた瞳、震える長いまつ毛。
「オルオ、オルオ!?」
ペトラの妄想に夢中だったオルオはマヤの怪訝そうな声で我に返った。
「あ? あぁ、ええっと、可愛く “おやすみなさい、今日は楽しかったわ” とかなんとか言えばいいんじゃねぇの?」
……さすがに兵長相手にキスをせがむのは気が早いよな。
そう思って、潤んだ瞳で見つめろとか、口を突き出して迫れとアドバイスはしないオルオ。
「おやすみなさいなら言えるけど、可愛く言うのは難しいよ…。大体どんなのが可愛いの?」
「そうだな…」
オルオの頭には、口を突き出して迫ってくるペトラの顔しか浮かばない。
「やっぱ潤んだ目で見上げてきて… “オルオ、私… いつもひどいこと言っちゃうけど本当はね…” ってよ…」
またまたひとり妄想の世界に足を踏みこみ、自然と目を閉じ口を突き出してしまうオルオ。
ついには両腕を伸ばして。
「そしてこうガバッと抱きついてきて目を閉じて…」
「ちょっと! 今ペトラのこと思い浮かべてたでしょう?」
「……ばれた?」
「ばれるわよ。オルオの願望はよくわかったけど、そんなことできないわよ…」
「わかってるって! 今はまだ兵長にそんなことできねぇよな。つきあって間もないんだし。とりあえずはマヤの想いをこめておやすみって言えばいいと思うけど?」
「うん…、そうだね。想いをこめて… だね。やってみるよ、ありがとう」
リヴァイを想う気持ちなら、いくらでもあふれてくる。
それなら私にもできると微笑んだマヤの顔は、野に咲く一輪の花のように清々しく。