第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「私が飛べないとなったら、申請書の内容が嘘になっちゃうでしょう?」
「……まぁ、そうなるわな」
「となると、申請書が無駄になるじゃない? 兵長だって気を利かせて受理してくれてるのに、そんなの駄目よ。だからきっとそれで兵長も今日、変だったんだわ」
最後の方はオルオにというよりは自分に言い聞かせるようにして、うんうんとマヤはうなずいている。
「いや、でもよ…」
オルオは納得がいかない。
今まで何度か、マヤの返事を待たずに申請書を提出してきたのだ。
マヤは誘えば100%必ず、一緒に早朝訓練をしてきた。だから万が一不参加で申請書の記述が虚偽になるということは想像できないし、たとえ仮にそうなったところで別にリヴァイ兵長は怒らないのではないだろうか。
……なぜならそれで怒るなら、初めから受理しない気がするんだ、兵長は。
でも今まで受理してくれていた。
ああ見えて神経質なところもあって曲がったことが大嫌い…、これは精神的にも物理的にもだが…、そんな兵長が不確定の情報の申請書を受理するということは恐らく、申請書そのものに意味を見いだしていないからだと思う。
……きっと “くだらねぇ” と考えているんだ、立体機動装置の使用許可申請書なんかよ。
「兵長は申請書なんかクソくらえと思ってると思うぜ? 機嫌が悪かったのは気のせいだったんじゃねぇの?」
「そんなことないわ! 絶対に変だったもの!」
「ふぅん…、そうかよ」
愛おしいペトラに比べると大人しくて言い返したりはしないイメージのマヤが結構な勢いで反論してきたので、オルオはとりあえずは引き下がった。