第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「そうだね。……なんかごめんね。せっかく誘ってくれたのに、ペトラの話が何もできなくて」
しゅんとしているマヤを見て、慌てたのはオルオだ。
「いや、違うし。別にペトラのこと教えてもらう目的で飛ぶの誘った訳じゃねぇからな?」
「うん…。でも、ちょっとは期待してたよね?」
ウッとオルオは声を詰まらせる。
「そ、そりゃよぉ…、少しはな…? 全然期待してないなんて言ったら嘘になるけどよ…。ちょっとでもペトラの考えてることは知りたいしな。そうなるとマヤに教えてもらうのが手っ取り早いだろ?」
「そうだよね、わかるよ。私だって兵長のことだったら、どんなことでも知りたいもん」
「それ!」
オルオが大きな声を出すと同時に指さしてきたので、マヤはびくっと驚いてしまった。
「俺が今日マヤを飛ぶのに誘った理由」
「えっ、何? ……兵長のこと?」
「そう、やったな!」
満面の笑みをぶつけてきたオルオが、その勢いのまま小突いてくるものだから、マヤは危うく枝から落下しそうになる。
「兵長とつきあってから全然まともに話せてなかったしよ、やっぱちょくちょく話を聞いていた身としては祝いたくてな。良かったな!」
「あ、うん…。ありがとう」
「で、どうなんだ?」
「……どうって?」
「兵長とつきあってどうなんだよ」
マヤは目を白黒させる。
「どうも何も…、まだ昨日の今日なのよ? 別に何もないけど…。夕方に執務の手伝いをまたするようになったのくらいで…。そのあとは食堂に行って…、あっ!」
今日のリヴァイとの行動を順に追ったことで思い出したようだ。
「オルオ、申請書なんだけどね」
「申請書?」
唐突の申請書なる単語に戸惑いの色を隠せないオルオ。
「うん。オルオ、私と飛ぶのに私の返事を聞かずに先に申請書を出したでしょう? だから兵長が機嫌が悪いっていうか、あまり良くない感じだったの」
「へ? どういうこと?」
間抜けな感じの声を出すオルオに若干苛立った声で返すマヤ。
「だから、もし私が飛べなかったりして…。もちろんそんなことは今まで一回もないわよ? でも万が一ってこともあるんだからね」