第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「いらっしゃ~い!」
団長室の扉を開ければ、どこかの芸人か道化師のようなふざけた声色で迎え入れるハンジ。……を華麗にスルーして、リヴァイはツカツカとエルヴィンの執務机の前に直行した。
どう対応したらいいかわからないマヤは、ハンジとミケに順番に頭を下げながらリヴァイに付き従う。
「やぁ、リヴァイ。夜明けの星を手に入れたか」
「……あぁ」
……夜明けの星?
リヴァイがヘルネに来る前の団長室でのやり取りのことなど知らないマヤは、首を傾げるばかり。
「そのことだが…」
リヴァイはまだ考えていた。
本来ならば、もっとも良い報告の仕方をじっくりと吟味してからのつもりだった。
……畜生、早急すぎて何も浮かばねぇ。
俺は別にこいつらの好奇の目に晒されてもかまわねぇ。
マヤだ。マヤを守らねぇと。
「……明日のレイモンド卿への返事だが、マヤは兵団に残ることになった」
エルヴィンはリヴァイではなく、マヤに声をかける。
「それが君の答えか?」
「はい…」
マヤは迷った。
兵団のためを考え、プロポーズを受けるつもりでいたことを団長に話すべきなのかを。
……でも、いくらそんな話をしたところで、最終的に兵長とともに生きることを選んだんだもの。
言っても仕方がない。いや言うのは弁解がましい、見苦しい。
一般兵士たるもの、上に問われたことだけに答えればいい。
だが… そうは思ったもののマヤの性格上、頭を下げずにはいられなかった。
「申し訳ありません…!」
「謝る必要はない。言ったはずだ、レイモンド卿の条件は気にしなくてよいと。私はマヤの選択を喜んで受け入れるよ」
「そうだよ、マヤ!」
ハンジも大歓迎の気持ちをこめた声を飛ばしてくる。
「よくぞ正しい決断をしてくれた! マヤが王都に行っちゃったら、どうしようかと思ったよ。なぁミケ?」
「あぁ」
ミケは口数は少ないが、砂色の長い前髪に隠れている小さな目は優しく笑っていた。