第27章 翔ぶ
“惚れた女に生きていてほしい”
レイの言葉は、あたかも魂の叫びのようにリヴァイの胸に突き刺さった。
「そうだろ、兵士長? そう思うのが当たり前の感情ってもんだろ? あんたはどうなんだ? マヤに生きてほしいって思わねぇのか?」
「………」
リヴァイは言葉に詰まったが、やがて重い口をひらいた。
「……思うに決まっている。それはなにもマヤに限ったことじゃねぇ…、壁外に出た仲間すべてに思うことだ。命を失いたくねぇからと誰も壁外に出なければ、何も変わらねぇ。巨人に怯え、自由のない鳥かごの中の鳥のままだ。そして…」
リヴァイの顔が苦しそうにゆがんだ。
「俺が、いや俺たち調査兵が…、何人の命を見殺しにしてきたか知らねぇだろう。だからここで、自由はねぇが安全な鳥かごで一生暮らすと壁外に背を向けることはできねぇ。それが調査兵の宿命だ。だがな…、お前の言うことはよくわかる。それは真っ当な考えだが…、いかにも壁から一番遠いところで平和をむさぼるクソ貴族の言いそうなことだな」
「なんだと…!」
クソ貴族という言葉に気色ばんだレイだったが、リヴァイの顔を見て何も言えなくなってしまった。
それは何人もの仲間の命のともしびが消えてゆくのを見てきた男の哀傷。
「お前らはお前らで平和ボケした王都で安穏と暮らせばいい。俺にはできねぇ」
リヴァイは立ち上がった。
「帰るのか?」
「あぁ」
「マヤを王都に連れていくぜ?」
「………」
もう話すことは何もないとばかりにリヴァイは、一切振り返らずに出ていった。
広い部屋のなか高価な家具に囲まれて一人取り残されたレイは、呆然と閉まった扉を眺めていた。
「確かにオレたち貴族にはわからねぇよ。戦場に行った者にしか見えない景色は…。だが、いやだからこそマヤをその地獄から救い出せるのはオレしかいねぇ…、オレしかいねぇんだ!」
口をついて出た言葉は、レイの気持ちを奮い立たせるかのように部屋に響いた。