第27章 翔ぶ
「てめぇ…、それでも団長か? 大事な部下の… 仲間の苦境をなんとかしようと思わねぇのか。いや違う。てめぇが陥れたようなもんだったな、このクソが」
憎悪の矢のような視線を向けられたところで、エルヴィンはなんら気にしていないようだった。
「あぁ、思わないね。苦境かどうかなんてマヤにしか、いやマヤですらわからないさ。刻々と状況は変わる。先ほど団長室に来たマヤは確かに不安げで困惑していた。だが今…、同じ感情でいるかどうかはわからない…」
バキッ!
エルヴィンの長たらしい言葉は大きな音と振動で強制的に止められた。
リヴァイが執務机を蹴ったのだ。
「もう屁理屈は聞き飽きた。お前はここに座って一人でしゃべっていろ」
そう吐き捨てて、くるりと背を向けて出ていくリヴァイをエルヴィンの声が追いかける。
「あぁ、そうしよう。リヴァイ、お前もせいぜい頑張るんだな」
その言葉に一瞬リヴァイの歩みが止まったかに見えたが、そのまま振り返ることなく団長室を出ていった。
エルヴィンはしばらく閉まった扉を見つめていたが、にやりと意味ありげな笑みをこぼした。
「……想いを形にしないと、何もかも手のひらからこぼれ落ちてしまうぞ…、リヴァイ」
マヤがレイにプロポーズの返事をする期限まで、あと二日。
リヴァイはトロスト区にいた。
オリオンとともに立っているのは、街で一番大きくて高級な宿の前。
ひときわ大きな黒い馬と、かの有名な調査兵団のリヴァイ兵士長の姿に気づいた宿の支配人が転がるようにして出てきた。
「リヴァイ兵士長殿、いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
「投宿しているレイモンド卿に面会しにきた」
「かしこまりました。馬はこちらでお預かりいたします」
支配人が使用人に目くばせをしてオリオンを連れていこうとしたが。
キュイィィィン!
強く警戒されて、ひるむ。
「こいつは俺が連れていく、厩はどこだ」
「ご案内いたします。こちらへどうぞ…!」
宿の厩にオリオンを連れていったのちに、うやうやしく宿の一階にある豪奢な待合室に通された。
「バルネフェルト様にお取次ぎいたしますので、こちらでしばらくお待ちください」