第27章 翔ぶ
リヴァイの声の矢を避けるように、エルヴィンはひょいと肩をすくめた。
「人聞きの悪いことを言うな。リヴァイ、お前は何もわかっていない。マヤは条件を突きつけられようが突きつけられまいが関係なく、仲間のことも兵団全体のことも考え抜くに決まっているではないか」
「………」
それはそうかもしれないと、リヴァイは返す言葉がなかった。
「だから最初から、お前の怒りの矛先はあってないようなものなのだ」
「……そうであっても…」
リヴァイの声は言いようのない苛立ちで低く、不思議なほどに静かに流れた。
「レイモンド卿にプロポーズをさせる方向に導き、わざわざ条件の数々をマヤに認識させたのは間違いなくお前だろうが。レイモンド卿が許可を求めてここに来たときに突っぱねておけば、マヤが迷い苦しむこともなかろうに…」
そこまで話してリヴァイは、目の前のエルヴィンの碧い瞳が笑っていることに気がついた。
「おい、何がおかしいんだ」
「……気に障ったならすまない。マヤのことをわかった風な口ぶりだからつい…」
「……あ?」
「だってそうだろう? なぜマヤが迷うだの、苦しむだの言いきれる?」
「もともといかれたやつだとは思っていたが、本当にどうかしている。クソ貴族に狂ったような条件をちらつかされて結婚を申しこまれたんだぞ? 悩むに決まってるじゃねぇか」
「そうとは限らないさ。何を根拠にそう言いきれる? その揺るぎない自信に満ちた言葉は何を根底にしているんだ」
「根拠だの根底だの… そんなことはどうでもいい。俺はただ、マヤを苦しめたくねぇだけだ」
「甘いな、リヴァイ。お前にそんなことを言う資格はない」
「……あ?」
エルヴィンの言葉の意味が全く理解できなくて、団長室に来てから二度目の “あ?” が出る。
「マヤと何か約束でもしているのか?」
唐突な質問にリヴァイは声すら出せないでいる。
「……していないのだろう? ならばレイモンド卿とマヤのあいだに取り交わされる約束ごとにおいて、口を出す立場にはないはずだ。マヤが悩もうが苦しもうが、プロポーズを受け入れようが断ろうが…。すべて私たちは静観するしかない」
エルヴィンの声はリヴァイには非情に響いた。