第27章 翔ぶ
カフェや雑貨屋などは屋根からでも窓越しに様子は大体うかがえるし、滞在時間も短い。
だが高級レストランでは貸切だからか、外からはうかがい知れない奥の個室にでもいるらしくて様子がさっぱりわからない。しかも滞在時間が長いときた。
二人が晩メシを食い終わって馬車で兵舎への帰路につくまでが、一週間のうちで一番苦痛だったな…。
マヤさえレイモンド卿と間違いを犯さずに無事に帰舎するならば、そのあとの深夜の執務などは辛くもなんともねぇ。
そうやって一週間やってきたってぇのに。
うるせぇクソメガネにもばれずに、うまくいっていたはずだったのに。
今目の前で涼しげな顔をして執務机の上で両手を組んでいるこいつには隠し通せねぇ。
リヴァイは観念して、一週間の行動を素直に告げた。
そして。
「お前がレイモンド卿の条件を受け入れたという話は…、セバスチャンから聞いた」
「なるほど。バルネフェルト家執事長のセバスチャンか」
「あぁ、そうだ。今日はトロスト区で待機していても、二人は来なかった。おかしいなとは思ったが、先走って兵舎に戻ろうとして道ですれ違っては元も子もねぇ。遅れて来る日もあるだろうと待っていたら案の定馬車が入ってきた。……だが馬車は空だった。船着場に行ったかと思うと連絡船で届いた山のような白薔薇を詰めこんで、また街を出ていった」
リヴァイはまさしく今、白薔薇を満載した馬車を見送っているかのように顔をゆがめた。
「どうしたものかと俺なりに考えていたところへ、ちょうど眼下に執事の鑑が通りかかった。締めるのにちょうどいいと思ってな…」
「はは。締め上げて事情を聞き出すつもりが、レイモンド卿のプロポーズの条件を私が承諾したと聞かされたという訳か」
「……そんなところだ。おまけにあのじじぃ、“まぁゆっくり紅茶でも飲んでいけ” と引き留めやがって…」
「それはいい。主のために不穏分子を体を張って引き留める…。まさしく “執事の鑑” だな」
「……チッ」
舌打ちをしてからリヴァイは。
「おい、俺はクソ正直に話したぞ。お前の番だ」
「あぁ、わかっている。なぁに、そんな怒ることでもないさ。私はマヤに何も強制していないのだから」
エルヴィンの碧い瞳はきらりと光り、リヴァイの青灰色のそれは疑わしそうに相手を睨みつけていた。