第27章 翔ぶ
「あぁ、もちろん。ひどいときには明け方になるまで机に向かっていただろう? お前がそうまでしてどこに行くのか、何をしていたのか…。あれやこれやと妄想して随分と楽しませてもらったよ」
そう言ってくっくと笑ったエルヴィンの碧い瞳は、心からこの状況を楽しんでいるように見えた。
「………」
苦々しい表情で黙っているリヴァイに対して、エルヴィンは包容力のある声で話しかける。
「なぁリヴァイ。お前の質問に答える前に私は知りたい。大体は想像できるが、実際のところマヤの護衛とやらはどんな風におこなわれた? そして私がレイモンド卿の条件をのんだという話はどこから?」
……先に訊いたのは俺じゃねぇか。
リヴァイは当然のごとくそう思ったが、すでにもうエルヴィンの巧みな話の持っていき方に誘導されて反論する気は失せていた。
誰にも気取られずに行動したはずだった。
午後の訓練の第一部の指示をエルドに出し厩舎へ。オリオンとともに目立つ正門ではなく、厩舎そばにある通用門から出た。二日目にはヘングストの爺さんにばれてしまったが、爺さんは俺が言葉少なに話した事情を聞くとやたら機嫌が良くなって、全面的に協力すると申し出てきた。爺さんのおかげで一週間ものあいだ、隠密に行動できたと感謝しているくれぇだ。
通用門から出れば、一目散にトロスト区へオリオンとともに駆けた。
第一部の訓練を終えて馬車でトロスト区へやってくるレイモンド卿とマヤより先に入り、適切な場所でスタンバイするためだ。
初日は思ったとおりにいかなかった。二人の行動パターンが読めなかったからだ。
第一に決して見つかってはならぬとオリオンを街の外れの林に隠し、俺は建物の陰に身を潜めていたのだが。危うく馬車ではなく、レイモンド卿が連れてきていた従者の一人に見つかりそうになった。
……なんだ、あの人数は。
トロスト区で一番でけぇ宿を借り上げて、使用人をうじゃうじゃ連れてきて、一体どういうつもりだ。
あんな人数がいるなら迂闊に近寄れねぇ。
仕方なく屋根から見張る。
三日もすれば、大体のことはわかった。カフェや雑貨屋に入ったり、談笑しながら散策して。そして必ず同じ店で晩メシを食う。そこは貸切のようだ。
この時間が一番辛ぇ。