第27章 翔ぶ
聞いていて恥ずかしくなるようなセリフを平気な顔で言うレイを、まともに見ることができない。
顔を赤くしてうつむいているマヤの耳に、レイの自信と確信に満ちた声が降りそそいだ。
「だから何も心配する必要はねぇ」
手許の空のティーカップを見つめながら、こくんとうなずくのが精一杯のマヤ。
「今日はこのあと兵舎に送るつもりだ。マヤも色々と考えたいだろうしな…」
その言葉に顔を上げて、素直に礼を述べる。
「ありがとうございます」
……良かった…。
プロポーズされて、それも団長の承諾済みだという訳のわからない状況。正直なところ、いっぱいいっぱいだったのだ。
いつもならカフェでお茶をしたあとは少し散策をしたり、お店を覗いたりしてから夕食をともにするのだが、今日はとてもじゃないがそんな気分にはなれない。
プロポーズをされて返事待ちの状態なのに、その相手と何もなかったかのように会話をしたり、食事をすることが想像できない。
レイがそこを配慮してくれたのか、はたまたレイ自身も気まずい思いをするのを避けたのか、とりあえずは今日はただちに帰舎できることになってマヤは胸を撫で下ろした。
店を出る間際にリックがマヤにささやいた。
「……私はいつでもお待ちしております。どうかマヤ様の笑顔が紅茶とともにありますように」
「ありがとうございます」
レイに支えられるようにして出ていったマヤの後ろ姿を見送りながら、リックは案じる。
……マヤ様が兵士長ではなく、レイモンド様といらっしゃったときには一体この世はどうなっているのかと驚いたものだが…。
7月7日に来店されたおりには、兵士長とマヤ様のあいだに初々しい関係の予感を確かに感じた。しかし今日の様子では必ずしもお相手が兵士長とは限らないわけですな…。
どちらにしても私は温かく見守ることしかできぬ。
「いつの時代も、恋の行方は風まかせですな…」
リックは濃く青い瞳をきらりと光らせ、トレードマークの白いあご鬚をひとなですると、食器の片づけのために店の奥に消えた。